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「#幼馴染」のBL小説を読む
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回廊と新記録〜海賊の疾走〜

 ロケットランチャーは燃料切れと言うものを知らないらしい。上手い事避けて走っていたマリーンも疲れを見せているというのに、追っている側は常に一定のスピードで飛び続けていた。
 辛抱溜まらず一つは迎撃したが、続けて水の槍を形成する時間などない。走りながら撃てる程器用でもなかった。
 このままでは背負った少女が危ない、とマリーンは辺りを見回す。
「あそこ!あそこの扉が開いておる!」
 肩越しに、少女が一つの場所を指差した。
 言うとおり、扉が丁度開いている。其処へ飛び込んだ。
 足で扉を蹴る。無理やり閉める。そして走る。
 ロケットランチャーは器用にも閉まった扉に突っ込まず、外からマリーンを追尾し始めた。
 誰だこんな凶悪に頭の良い武器作ったの!
 仮面の下で泣きそうな海賊がいた。
 廊下を走る、走る、走る。窓の外にはロケットランチャー。並走しないで下さい、お願いだから。
 窓が開いていれば其処から容赦なく入ってくるだろう爆発物に表情を引きつらせていると、ふと前方に小さな黒いものが見えてきた。
 黒い床だろうか。小さな女の子がそこにうずくまっている。
 いや、違う。

「おにーさん!おねーさん!誰でも良いから助けてー!」

 黒い床(?)に、飲み込まれている。
 近づいていくにつれ、顔がはっきりしてきた。
 あの時の女の子だ。青い絆創膏をくれた、確か名前は、ロゼ。本浸ロゼ。
 マリーンは背負っている烏天狗の少女に、一言謝った。両手でトライデントを支えていては、目的が果たせない。
 片腕で少女の足の下を支えると、空いた方の腕をだらりと下げながらスピードを上げた。何ともバランスの悪い走り方だが、これで良い。
 もがこうと上へ伸ばされたロゼの手を確りと握り、意地でもスピードを下げないように走り続ける。黒い闇の様なものが凄い勢いで彼女を取り込もうとするが、海賊にとてプライドがあった。

「絆創膏の借りは返すっ!」

 本浸ロゼが、宙に浮いた。
 それを追うように黒いものから手が伸びるが、マリーンは急ブレーキをかけ、手に向かって水を打ち込み、また走る。
 片腕でロゼを抱きとめ、黒いものからも逃げ始めるのだった。
「力持ちじゃのう!」
 背中から賞賛の声を頂いた。
「鍛えているからな!」
 体力が底をついているのか、妙に上ずった声で答えるマリーンが、誰かに近づいていく。
 ふと、距離が縮まっていく彼に、見覚えがあるような気がした。
 確か、あの男……通り過ぎてきた従属科、とかいう所にもいなかったか?何だ、分身か?双子なのか?

 ジェット噴射の音が大きく聞こえた。

「いっ!?」
 窓が開いている!
 マリーンと少女二名、それから気難しそうな顔立ちの男性に向かって、ロケットランチャーが飛び込んできていた。
「これ、海賊!確りせんか!上じゃ、上!」
 退路を指示してくれる烏天狗の少女。
 マリーンは急いで指示された階段を駆け上がり、駆け上がり、駆け上がり!
 気づいたときには、ロケットランチャーの姿はなかった。

「……は、初めて逃げ切った」

「ようやった、海賊。面白かったのう!」
 先程の騒動にほろほろと笑う背中の少女。
「ああ、びっくりした……あ、また会ったね」
 何事もなかったかのようにふわりと微笑む少女。
 二人の女の子に挟まれ、般若の海賊は力尽き、座り込んだ。
 
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