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回廊で侵食〜鶏は農業が好き〜

 大体、満足のいく出来だ。
 殺風景な教室、倉庫、ガラスが割れて廃墟にも見える廊下。全てを『建築』して、自分好みに変えていった。
 侵略しろと言われて此処に来たが、侵略するより構築した方が良いと思った。ぼろぼろで、とても誰かが住めるような風景ではない場所が沢山あったから。
 俺の価値観と違ったから。
 俺は中級構成員。
 けど、扱いは下級に近かった。
 俺の力が破壊や攻撃に向かないものだったからだろう。
 侵略しろと言われた。
 可愛いウサギがいる小屋を。
 小さな子供が笑って走り回る廊下を。
 色々な学科があって、学科ごとに特色が違う、面白そうな場所を。
 壊して、崩して、蝕んで。
 そうして、悪の組織みたいな内装にしてやれと言われた。
 俺の扱いは下級だった。
 下級は逆らっちゃいけなかった。
 でも。

 価値観と違った。

 回廊は俺の力を、アジトを無限に、自由に、作り出せるものとして利用する。
 趣味じゃない薄暗い廊下。ごてごてした司令室。ロビーはグロテスクに。構成員の部屋は打ちっぱなしコンクリート。
 価値観と違った。
 俺は元々、農場で暮らしてた。
 のどかだった。牛がいた。羊もいた。あと、鶏。鶏が好きだった。よく俺の脚に乗っかってきた。俺の服をつついて、首を傾げていた。
 農場の持ち主は俺の能力に気づいて、気味悪がって、もう来るなって言って、俺は農場が好きだったけど、農場のためにはいなくなった方が良いと思って。
 鶏が好きだった。
 鶏に、なれたかな?
 のどかな風景。居心地の良い景色。心が落ち着く内装。わくわくする装飾品。皆、この風景を好きになるかな。
 どうでも良いか。
 俺の価値観と違うものは、よく分からない。
 鶏に、なれたかな?


 空が紫色だ。

 空がこんな時は、大体嵐が来る。
 鶏が怯えて、俺の周りに固まって、震えていた天気だから、覚えている。
 鶏を守ってやらなきゃいけない。ウサギも助けてやらなきゃいけない。のどかな風景に戻りたいな。また農場やりたいな。
 黒い何かが此処を覗き込んでいる。
 お前、此処を壊すのか?
 のどかじゃなくするのか?
 俺が折角、のどかにしたのに。
 俺の価値観で、のどかにしたのに。
 邪魔するなら、俺は邪魔をする邪魔をしよう。
 お前を『建築』して、良い子にしてやろう。お前の価値観を『破壊』して、能力者の端くれであるプライドを、叩きつけてやろう。
 ああ、色々なところから変な手が伸びる。知らない子供が連れて行かれる。
 のどかじゃない。


「……俺の価値観と、違う!」
 
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