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回廊は妙なニワトリを飼っています(アート)

 ぼんやりと学園の敷地内をうろつく人影があった。
 紫の繋ぎを着て、軍手に長靴、顔はニワトリの被り物。
 露出ゼロの不審人物が、ウサギ小屋の前にぬぼぉっと突っ立っていた。
「は?お前誰だよ」
 オレンジの繋ぎを来た長身の青年が、不審人物へ怪訝そうな視線を向けていた。
 目に隈がある彼は、ぬぼぉっと立っているだけの何者かに、少々イラつく。
 返事も何もなく、ただウサギ小屋を眺めているのだ。
「話聞いてんのかよ、このバカ」
「……」
 返事がない。これはイラつく。
 持っているデッキブラシで滅多打ちにしてやろうかと思ったが、掃除するのが面倒な気がしたので、しばらく見ている事にした。
 と、その時。
「……俺の価値観と、違う」
 ぼそり、とニワトリ頭の誰かが呟いた。
「はぁ?」
 あまりにも理解不能な呟きだったもので、掃除屋の彼は問い返してしまう。
 相手にしなければ良かったかも、と思ったが、相手はマイペースを貫き通しているらしく、ぬぼぉっとウサギ小屋に近づき、のんびり手をかざし、一言。

「建築」

 何を言っているのか、と問おうとして、彼は違和感に気がついた。ウサギ小屋の雰囲気が違う。
 思わず振り返り、そして、ニワトリ頭が何をしたのかを、直感で理解した。
 金網と柱で構成されていたウサギ小屋が、あっという間に広いログハウスのようなものに変化しており、ウサギ達が住まう場所のほかに、奥には飼料置き場と、部屋がもう一つ。何故か階段がついており、上にいけるようになっている。
 二階には何も無い大きな部屋が二つ。屋根は丈夫で、以前の面影はない。
 こいつが勝手に改築したのだと、そう悟った。
「アータ、なあ、何してんの?何二階とか作ってんだよ、何の意味があんの?なあ」
 住みやすくはなったが、目的不明の行動に、ズカズカと詰め寄って詰問した。
「……建築……俺の、イメージ」
 ニワトリ頭はぼそぼそ答えると、ゆっくりとした足取りでその場を後にする。
 何がしたいのか全く分からないそいつを、変なものが通り過ぎた、と思う事にした掃除屋の青年は、とりあえず兎たちが無事なのかを確認しに小屋へ戻るのだった。


 ニワトリ頭の不審人物。
 彼の名は、アート。回廊の構成員である。
 持つ能力は『建築』という、破壊や混沌を呼び込む回廊の中では異色の、構築する怪人だった。
 アートは歩く。ボルトによって破壊された学園を、ふらふらと。
「俺の、価値観と、違う」
 そう呟いては、勝手に増築だの改築だのをかまし、ある意味での混沌を呼び込みながら。

 只今の罪状
 勝手にウサギ小屋増築罪
 なんかぬぼぉっとしてる罪
 
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