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- ナノ -
〜終〜

 おにぎりを咀嚼する音が続いている。もぐもぐもぐもぐ。国原はのんびりと米と具を噛む。
 付け合せの漬物をよく味わい、茶を啜る。ぷは、と息継ぎする音の後には、やはりもぐもぐが続いた。
「(獣さん、これが昆布おにぎりの味だよ。これは沢庵だよ。今飲んでるのは緑茶だよ。分かる?)」
 食べながら自分の内側を間借りしている黒い生き物に意識を向ける。
 味が伝わっているかは正直分からない。温度や舌触りが届いているかも分からない。けれども国原は食べながら、今食べたのはね、と話しかける。
 どうして自分たちの体に入ってきたのかは分からないが、悲しい思いと強い怒りを抱えて引きこもっているのなら、少しでも獣が寂しくないようにと食べて遊んで見て聞いて、これはね、これはね、とコミュニケーションをとろうと思い立ったのだ。
「(今度のおにぎりは、おかかだったよ。おかかは香りが良くて、少ししょっぱいよ)」
 食べたものを一々教えていく双子の姉に、弟は若干げんなりしていた。獣とコミュニケーションをとるという思いつきに賛成はしたのだが、無反応が長いこと続いていた。
 何の言葉も返らないのにまだ話しかけている。気が長い計画にうんざりしているのだろう。少年は溜め息をつくと、内側から姉に向かって声をかけた。
(今日も何も無しだな)
「(そうだね。でも気にしない。明日も明後日も話しかけよう)」
(今日だんまりだったのが明日いきなり喋るようになるかよ?)
「(来週にはちょっと喋ってくれるようになってるかもよ?)」
 呑気である。あまりにものんびりし過ぎである。
 マイペースにわくわくしている姉に苦笑し、弟は折れる事にした。こうなったら双子の片割れの気が済むまで付き合おうじゃないかと腹をくくり、何も言わない獣に向かって言い放つ。

(おめぇがうんざりしても、げんなりしても、疲れ果てても、ひつこく話しかけてやるからな! 覚悟しやがれ!)

「(覚悟しやがれー)」
 学の啖呵に、のんびりと文が続く。
 小さく笑い合った双子が寮に戻ろうと足を動かす中、奥の奥で丸っこくなっている獣は一人、口角を吊り上げるのだった。
 黙っていても気にかけてくれる双子がお気に入りである。
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