たぬこー(一平屋重丸/軽助)
「軽ちゃーん、見て見てー」
高い声が教室の外で上がった。
召喚科従属クラスの教室に入ってくる少女は頭に白い何かを載せている。それを見て一平屋はぎょっとするが、少女には一平屋が戦く理由が分からないようで、きょとんとしていた。
寧ろ、けろっとしていた。
「こーもり、ぱーたぱたー」
楽しそうに歌いながら一平屋が座る机に向かっていく小さな狸耳の少女の名は、一平屋重丸(えまる)。
齢はぴちぴちの百十歳、身長は百五十センチという、小さめの母親である。ちなみに実母である。
「落ちてたんだよ」
恐らく誰かに撃退され弱っていたのだろう。それをひょいと持ち上げ頭に載せたこの母は、白いコウモリが現在の騒動と深く関わっている事も、敵対している勢力の手駒だという事も分かっていないらしい。
というか授業中だという事も分かっていないらしい。
「は、母上……あのう」
「この子のお名前はねぇ、白くって大きいから、雪球ちゃん」
「ゆ、ゆきだま……じゃなくて、それは魔女の使いで御座んして」
「やぁー。これからママの使いになるのー」
どちらが保護者だか。
白いコウモリを抱っこして駄々をこねている小さな母親は、持っていたビスケット(懐かしくもたべっ○どうぶつである)をミミナガコウモリに食べさせながら、ママの、と言い張る。
危険だと忠告する娘に頬を膨らませ、いやいやと首を振る様は何だか小学生のようだ。
「雪球ちゃん、だめっていう軽ちゃんをぶてー」
しかもコウモリに無茶振りするし。
「キィッ」
「あ痛っ!」
コウモリはコウモリで実行したし。
このコウモリ、食糧や名前や愛情を注がれたのが分かったのだろう。母親こと一平屋重丸を新たな主と定めたこいつは悪乗りをし始めた。
べしべしと軽助を叩いていく雪球。
たまに顎とか打ち抜いてみる雪球。
たまに噛み付いてみる雪球。
やめろ、もうやめろ。
「雪球ちゃん、良い子ー」
のほほんと拍手する母親と軽く傷だらけな娘の間で、元魔女の使いがなにやら楽しそうに羽ばたいていた。
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