〜6〜
その家の中では体が大きくならない。膝小僧を抱きかかえて座っているとだんだんひねくれていくのが分かる。森の空気は深い草の匂いを家の中に運ぶ。新芽が太く大きく育つ間も、オレは子供の姿のままだった。
ごめんな、とオレを捨てたお袋様は今頃死んでるだろうか。死んでれば良いなぁ。死んでろよ寧ろ。死ね。オレをこんな物に閉じ込めてのうのうと幸せ三昧してる奴は死合わせ万歳だ。
醜く歪んだ大きな手で体をさする。暑くも寒くもない。腹も減らない。ただただ絶望して失望して悲しくて寂しくて腹が立って頭にきた。何十年もずっとそうだった。
オレの心はいつから怒りと恨みで安定していたんだろうか。あまりに可笑しな安定の仕方だったから気になった。オレはまるで没個性な憎しみの塊になっていた。
オレの心はいつから個殺(こころ)になっていたんだろうか。
真っ黒い八つ当たりが祠の扉を蹴り続ける。封印なんていう字面がからくり染みた卑しい馬鹿野郎のせいで、オレは死んでいった兄弟たちの本心も知れぬまま一人ぼっちなのだ。兄弟たちに何故嫌われたのかも分からないままお袋様に捨てられたままなのだ。
オレは生まれちゃいけなかったのか。
なら何故生んだ瞬間殺してくれなかったのだ。
オレは悪なのか。オレは怪物なのか。オレは要らない仔なのか。オレは何なのだ。
オレ誰だ。獣か。化け物か。化かすのか。馬鹿にするのか。どれだ。オレは。
ある日、そいつを見つけた。
祠の前で花を摘む小さい女児だった。中には男児もいた。オレと同じ血を流した餓鬼である事は明白だった。同じ妖気同じ匂い同じ気配。あの、オレを捨てた輩の気配。
生きていやがったのか。生きて孫とひ孫と玄孫に囲まれていやがったのか。オレを一人にしておいて、お前はその血を撒き散らしていたのか。
悔しい。
悔しい悔しい悔しい悔しい。
苦しい。
オレは何故此処で一人なんだ。餓鬼は何故其処で二人なんだ。あいつは何故何処かで複数人なんだ。この対比は何だ。意味が分からない。訳が分からない。
生まれてこない方が良かったんだ。
久しぶりに目の前が滲んだ。
久しぶりに鼻の頭に水滴が降って来た。
声が出ない。苦しい苦しい苦しい苦しい。悔しい。
寂しい。
目の前の餓鬼は父親に愛されて育っているのにオレは此処で三角座りだ。誰もオレの名を呼んじゃくれない。誰もオレを見ちゃ……。
「あい、どーじょ」
小さい餓鬼が、摘んでいた花を束にして祠の前に置く。年の頃は三つか四つか。小さい餓鬼がオレの祠を見ていた。
供え物のつもりなんだろう。のんのん、と手を合わせている。この祠が何を意味しているかも知らないで。
オレを見た。
この子供たちはオレを見た。
オレに花をくれた。
……縋りたくなった。
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