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〜3〜

 昔から黒いままだった。黒い体と毛と尻尾と爪がそのまま拡大したかのような自分に吐き気を催す。空しくも黒と白で彩られた自身の体を見れば、其処には影すら無かった。
 昔から蹲って泣く子だった。黒い髪と赤い髪と茶の目と金の目はそのまま人を見据えて生きてきた。母に捨てられし過去は同じなれど、この餓鬼共は父があった。
 祠。祠。小さき祠。
 建ててくれと頼んだ覚えの無い空しき我が家はいつでも風に晒され、封じられたオレは怒りと憎しみと妬み嫉みに支配されながら息をした。
 双子は人間になりたかった。蛇に絆され人に貶されそれでも縋るように人を夢見て泣いた。化け物と言われれば弟が怒り、雷神と呼ばれれば姉が蹲る。なんて可哀想に。あいつが人と交わらなければ泣く者もなかったろうに。
 ずっとずっと付き纏った。双子はいつも何処か不安に囚われている。人間に囲まれ、理解者が傍にいて、笑っていても不安そうに辺りを見回していた。
 いつ化け物と言われるかを気にするかのように、いつ人の集まりからはじき出されるのか怯えるように、いつ裏切られるかと身構えるように。
 可哀想に。
 だがオレにとってこれ程都合の良い者もなかった。
 人を信じきらず、捨てられた傷の痛みを今も忘れず、雷の血を流す隙間だらけの子供というのは、こいつらを置いて他に無かったのだ。
 可哀想だな。ああ可哀想だ。

 小さな祠がちらついた。

 ごめんな、と一言残してオレを捨てたお袋様の後姿がちらついた。生まれつき真っ黒なオレを捨てて笑って生きる一族の者が浮かんでうねった。
 可哀想だな。ああ可哀想だ。この双子は可哀想だ。この双子は可哀想だ。
 オレが守ってやろう。守ってやるんだ。ずっと一緒にいればもう寂しくないさ。化け物にはなるが寂しくはないさ。もう誰にも捨てられやしないさ。
 人間は憎いだろう。母は憎いだろう。オレもだよ。オレは理解者だよ。
 負の感情に飲まれた子供たちの足元を見るかのようにずるりと潜り込んで、オレは体を乗っ取った。汚い真似だ。許してくれとは言わん。
 寂しい心を共に埋めよう。空しい気持ちが二度と湧かぬように。人を恨んで母を憎め。オレも手伝う。さァ笑エ。
 楽シカロ? 楽シカロ?
 オレ達を見下げていタ人間共ガ。

 八つに裂かれるのは楽シカロ?
 
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