〜2〜
双子は何だか無性に笑いたくなっていた。獣が笑っていたから。
双子は無性に泣きたくなっていた。獣が人を焼いたから。
双子は人間が憎らしかった。獣が強く恨むから。
あはは、あはは。手を繋ぐ相手もいない。双子は一人っ子になってしまった。あはは、あはは。悲しい気分だった。
昔と同じ、いや同じではない、それ以上に酷い有様だ。
人を焦がした、それを見た。恐れおののき気を失い、あっという間に獣の侵入を許してしまった。あっという間にくっ付いてしまった。
あはは。
あは、は。
涙が出そうだが、出ない。
獣が馬鹿笑いをしているせいで、涙が出ないのだ。
双子の姉とも弟ともつかないそれになったので、もう自分たちの声が外に出なくなってしまったのだ。
国原姉弟は、今、全身真っ黒な雷の獣と化して森を走り抜けていた。
暴走だ。
暴走しているのだ。
昔を思い出し、傷を負い、古傷を抉られてしまったことに強く動揺した姉と、怒り狂ってしまった弟が、酷く暴走しているのだ。
二人の魂は未だに融合していないが、暴走を続けていればそのうち魂は一つになってしまうだろう。歪な魂と心と体を持った生き物になってしまうだろう。
あはは、あ、はは、は。
笑い声が空しい。
意識を完全に共有し、お互いをお互いと認識できなくなる程くっ付いた双子が、一匹の獣として暴れている。
人格が一つ。体が一つ。ストッパーがいない。アクセルだけだ。
狂喜乱舞する獣の内側で、獣を恐れて泣いている双子がいる。それと同時に獣を許容している双子がいる。
「(助けて)」
文の声の筈だが、それは獣の口から出る事はなかった。ただの思念として風に消えるだけ。空しい。空しい。ただ消えるだけ。
「(黒こげ怖いよ)」
泣きそうな声で助けを求めても誰にも届かない。一人っ子は馬鹿笑いして暴れている。心の声が人間に届く事はない。
もしかしたら。
国原を慈しむ妖怪がいたのなら。
あるいは届くやも知れないが。
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