〜17〜
昔からそうだ。
昔からそうだった。
妹が釘の森で暮らすと決めるまでの間、マチルダは屈辱を味わい続けた。
マチルダが好きになるものをエルダも同じように好きになり、妹だからという理由だけで両親に優先される暮らしだった。
姉だから、今まで十分愛されてきたから少しは我慢しろというのは、もっともだとマチルダは思う。
両親からの愛情を妹に譲ってやろうと堪えたマチルダだったが、彼女たちが幼いながらも女として目覚め始めていた頃にまた奪われた。
マチルダが好んでいた魔族の男性にアプローチをかけたのは、エルダだった。
エルダは姉が彼の事を好いているとは知らなかったが、何でも妹優先の家で暮らしているマチルダにはこれさえもがエルダ贔屓に見えた。
最悪なのはその男がエルダと分かれた後にマチルダを誘惑し始めた事だ。
妹と付き合っていたかつての思い人が今度は自分の方へ流れてきたのだから、マチルダは妹の中古品を施された気分になって酷く惨めだった。
マチルダは数人の男を好きになったが、誰も彼もエルダの好みと被ってしまい、消極的だったマチルダは妹に先を越されるばかりであった。
酷く辛かった。
酷く悔しかった。
しかし突然積極的になれるならば誰も苦労はしない。
マチルダは数年耐えた。
彼女にも相応しい男性が現れるまで。
やがてマチルダは一人の男と恋に落ち、婚約までした。
妹の好みにあわない男だったので先に奪われる心配もなく、マチルダは男と仲むつまじい日々を送っていた。
が。
男は、マチルダを裏切った。
魔力に秀で、悪びれた様子もなく、感情表現豊かなエルダの方へ、視線が向いてしまったのだ。
男は陰に隠れてエルダを口説いた。
エルダは姉の婚約者を酷く軽蔑し、追い払った。
姉に、あんな男などと付き合うなと強く言い、しまいには婚約を破棄させた。
姉を思う心からきたものだった。
今まで奪われ続けてきたマチルダには、とてもそうと思えなかったのだが。
マチルダは妹をとても恨んだ。
折角の幸せを打ち捨てられたような気がして、妹を愛する心など凍ってしまったかのようだった。
マチルダは呪った。
よく笑いよく怒り表情も豊かではっきりした妹を疎んだ。
妹に、魔族の男など出来ないように呪った。
幸せを奪われて思い知れば良いのだと思った。
エルダに恋人は出来なかった。
マチルダにも恋人は出来なかった。
更に慎重に、考え深くなったマチルダは、言い寄る男を皆疑わしい目で見ては門前払いをしたのだ。
妹を呪った業に、耐えられなかったのかも知れない。
しかし、エルダには恋人が出来てしまった。
夫が出来てしまった。
幸せに、なってしまった。
誰かを信じる心が麻痺してしまったマチルダをよそ目に、エルダは夫との間に三人もの可愛らしい子どもを生んだ。
幸せそうに笑っていた。
マチルダは、惨めな気持ちであった。
何も得ることなく生きてきた自分とは違い、妹は次から次へと幸福を掴んでは物にしているから。
マチルダは、いっそ狂ってしまいたいほど惨めな気持ちであった。
幸せが、欲しかった。
散々奪われてきたのだから、奪い返しても良いと思った。
思ったのだ。
惨めだった。
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