〜11〜
「これより転送の儀を行う」
「時間軸は三十年前の釘守町……使い魔が送られたすぐ後に設定する」
「あちらに向かったら僕たちはサポートを行えない。敵を討伐するか、過去に何らかの影響を与えたと見なされた場合に此方へ戻れるようにしてあるからね」
ドス、ウノ、芥川の順に短い説明が入る。
噴水の部分が時空の渦になっている小池の縁に立った五人は、中央を見据えたまま話を聞いていた。
過去の酒菜、エルダに姿を見られないよう注意をすること。
最後にそう忠告され、五人と一匹は渦巻く魔力の中へ飛び込んでいった。
親しくもない、悪魔の三つ子を救うために。
時計塔の頂点に足をかけ、ガーゴイルがあるマンションを見つめていた。
標的になっているのは勿論、槌田酒菜である。
ソレイユ、持永、犬島、笹川、木場の五人と蝙蝠一匹は社宅が並ぶ町の一角に転送されていた。
使い魔に気付かれないよう、過去の住人に影響が出ないよう、あえて少し離れた場所へ送られたのだ。
「つっかいまーは、何処ですかー?」
見っ積もりーだ見積もりだ、の音程できょろきょろと辺りを見回す羽音の周りを蝙蝠が飛ぶ。
超音波を発射し、跳ね返る速度で周囲の様子を窺う蝙蝠は何かに気付くと羽音の傍から離れていった。
「あの蝙蝠……魔女の手下では?」
犬島が訝しげに羽音に尋ねるが、蝙蝠と魔女の関係を把握していないのか、羽音は首をかしげている。
「ていうか何処行ったの、蝙蝠」
ソレイユが飛んでいった蝙蝠を見つけようと目を細めるが、なかなか見つけられなかった。
逃げていったのか、使い魔の元へ飛んでいったのか。
羽音がふんふふーん、と鼻歌を歌っているのを見て、持永は言った。
「歌ってる場合なんですか?」
それでも羽音はふんふふーん、と鼻歌を続ける。
その鼻歌と蝙蝠の鳴き声、羽ばたく音……頭に犬の耳を飛び出させた犬島は、何かに気付いた。
「……蝙蝠が、答えている……?」
次第にぱたぱたと羽ばたく音が大きくなってきた。
木場羽音の歌う声をキャッチした蝙蝠は、迷わず此方へ戻ってくる。
そして、上下左右に大きく飛び回り、五人に何かを示したのだった。
「……蝙蝠、何て言ってるの?」
ソレイユが尋ねる。
「多分……着いて来いって、言ってるんじゃないか?」
眉間に皺を寄せ、考え込むようにして笹川が答えた。
「おいでやおいで〜」
蝙蝠に呼ばれるまま、疑うこともなく羽音は歩き出している。
彗は羽音の後に続き、しかし警戒した様子を崩さない。
「申し訳ない、ソレイユ氏。小生の荷物を持っていてくれまいか」
「え? 良いけど、なんで……?」
此方では犬島がソレイユに鞄を渡していた。
中には苦無や手裏剣、単刀がみっちりと入っていて、なかなか戦慄できる。
鞄の中を覗き込む持永に、犬島は囁いた。
「いざという時は、宜しく頼みまする」
「……出来る限りは、しますけど」
強く頷く犬島。
小さく頷く持永。
蝙蝠にいざなわれるまま、五人組は来るべき決戦へと歩を進めるのだった。
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