〜9〜
「行儀よく立っているね」
ガラスとも鏡とも取れない不思議な輝きを持つそれの前に、場所は違えど二人の少年と一人の少女が立っている。
呟くような声が響いたかと思えば次の瞬間、(俗にこう呼ぶとしよう)鏡の中から突然、人の腕らしきものが伸びてきたのだった。
「うわ!?」
「ぅっ!?」
二つの声が上がる。
力ずくで鏡の中へ引き込まれた二人と残された一人の少年をよそに、鏡の輝きは失われていた。
「これでトータル四人。残るは一人……懐中時計が告げる時間までに間に合うかな」
何処か他人事といったように言うのは引き込んだ張本人である芥川だ。
相変わらずよく分からない趣味の服を着ている電波な鏡の住人は、今しがた引きずりこんだ二人を見て尋ねた。
「大方のことは手紙を読んで把握しているね?」
それに頷く二人。
頷き返した芥川が更に続ける。
「すまないけど、今は緊急事態でね。手紙以上の説明をしている暇は無い。情報不足のまま戦ってもらう事になるけど、頑張って欲しい」
「俺たちは何をすれば良いんだ?」
芥川の言葉に問いかけを投げたのは、二人の少年の中から選ばれた、笹川彗。
問いかけに、小さな帽子からハトを出した芥川が告げた。
「説明をしている暇は無いって言ったじゃないか。しいて言うなら戦うんだ。死ぬかも知れないけど頑張って……僕たちは次元を捻じ曲げる恐れがあるから行けないんだよ」
次元を捻じ曲げる。
二人が周囲を見てみれば、過去への入り口だろう、和やかな町並の中で一部だけ渦を巻いた穴が見えた。
広場の噴水があるだろう池。その池の中央に開いた(そのせいで噴水が消えてしまっている)異次元への入り口を守るように立っているのは、国原姉弟……いや、それに似た誰かだった。
あれは誰かと問いかける暇すら無いのだろう。
「僕はこれから最後の使者を導きに行く。二人とも、先に到着した彼女らと親睦でも深めていてね」
一つの鏡に飛び込んだ芥川を見送りながら、笹川と持永はこちらだと手を振っているソレイユの方へと足を進めるのだった。
戦力は着々と蓄えられつつある。
魔女の陰謀に引導を渡せるかどうかは。
鏡のみぞ知る。
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