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- ナノ -
〜8〜

 ヒグラシが鳴く夕暮れ時。
 約三十年前の釘守(くぎもり)町――。
 槌田酒菜のパソコンに知り合いから肝試しに誘うメールが届いたその頃。

 一匹のガーゴイルが降り立った。

 やせて筋張った体から生えた大きな翼。
 ゆっくりと地に下りた魔女の使いは、己の使命を遂行しようとしていた。
 槌田酒菜が釘エルダと出会わないよう細工するのだ。
 何なら殺してしまっても構わない。
 魔女からそう言いつけられているガーゴイルは、殺す気満々の面持ちだった。
 諦めたように酒菜が立ち上がり、クローゼットからスーツを取り出す。
 マンションの一室で起きている事柄を遠くにある樹木の上から見ているガーゴイルは、そろそろかと立ち上がる。
 森に到着し、騒がしい男女が殺され、酒菜が魔女と出会う。確かこんな流れだった筈だ。
 ならば酒菜の知り合いが皆殺された瞬間に酒菜を殺してしまえば、もう魔女に辿り着くものは何も無い。

 酒菜が自宅を出た。
 これから十何分バスに乗る。
 ガーゴイルが追いかけるように翼を羽ばたかせた。


「この時間軸に送り込むよ」
「送られる方も難儀だな……大して時間が無いじゃぁないか」
「今赴いて殺してしまえば良い!」
「落ち着きなよルブルベスタ・ドス。強大な力に強大な力で対抗すれば捩れも大きいんだ……非力な人間に任せるしか無いんだよ」
 鏡から世界を覗き込んでいた芥川と双子のルブルベスタは、協力者の方を向いた。ソレイユと、犬島。あと三名必要である。
 槌田酒菜にメールが届く時間に送り込むつもりではあるが、協力者の到着が遅れればその分介入できる時間も減っていくだろう。

 酒菜が魔女に出会えるよう、補助しなければならない。
 
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