小悪魔、初の授業放棄(ギルギル・チョッパー)
ギルギル・チョッパーは走っていた。
目の前を大きな先輩が走っているから真似をしただけとも言う。
とにかく走ってはいた。
召喚従属クラスの次の授業は、歴史の確認テストだとか担任の割と格好良い先生が言っているのを聞いていた先輩、御境茶々彦は突然立ち上がった。
「私は過去を振り返らぬタイプで御座るから!」
じゃ、そういう事で! と廊下を全力疾走する御境先輩に倣い、オレも! と走って出て行ったのが発端である。
何処に行くかは目の前の先輩次第であるので少し不安だが、授業をサボタージュするとかマジ胸熱、という感想を抱く悪いおガキ様であるので、多分大丈夫だ。
勉強嫌いな御境は、時折こうして逃げ出すのだという。
同じく勉強嫌いで、なおかつ道徳的な物も好みじゃないギルギルは、潔く逃げていく御境を見て好感を抱いた。このくらい分かりやすく不道徳を行える存在というのは、悪魔から見ても好印象であるらしい。
「なーなー! アンタ何処行くの!?」
後ろをついて行きながら声をかける。
「ぬあ!? びっくりした! おったのかお主」
今気付きましたみたいな反応が返ってきてカチンと来たが、そういう反応も含めて面白い先輩だと思うので許してやろうとギルギルは思う。
いや、何様だお前。
オレ様か。
ああ、はいはい。
「別に行き先などは御座らん!」
「えー? つまんなくね!?」
あっさりと目的もなく走っている事を白状され、ブーイングする小悪魔。不平不満にも大して動じず、御境は言ってのけた。
「そのうち召喚されて、強制的にテストを受けさせられるで御座るよ」
「逃げたって無駄なんじゃん!」
先生は強いで御座るからなー、と呑気に言う御境の足元を、丸くて複雑な模様が飾る。気がつけばギルギルの足元にも同様のものが見て取れ、小悪魔は本能的にやばさを感じて飛び上がった。
「空を飛んでも無駄で御座るよ? 召喚されるから」
「いっ!? マジ!?」
そんな会話の最中に、お互い、体が光って消えた。
「……チョッパーは今回が初犯か。そのまま席に着きなさい。御境……お前は生徒指導室で話し合おうか」
頬の文様がうっすら赤みを帯びている担任・鷹羽の前に、逃げ出した二人は立っていた。ギルギルは、めっ、と注意されたような感じで、渋々着席する。事の成り行きを見守る事にしたようだ。
赤い爪で肩を掴まれ、御境はひきつった笑みを浮かべていた。いくら願っても主人からの召喚は無い。こんな時に限って興味をそそられる授業でしたか姫……! とか何とか涙目になるのを堪えていると、鷹羽の手に力が篭った。
「来なさい、御境。一度ゆっくり話したかった」
「先生こえー……この悪さはあんまりしない方が良いっぽいな」
先輩を犠牲に要らん事を覚えていく小悪魔はその後、数珠状のブレスレットで魔法を使い、カンニングを試みたのだが……どうなったかは伏せておこう。
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