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〜5〜

『誕生日おめでとう(^o^)/☆』
 というメールを受け取り、嬉しそうに笑う女子生徒が直後に倒れる。
 金髪の魔女が人差し指で少女を指した瞬間、幸せのエネルギーが搾り取られたのだった。
 携帯電話を拾い上げたマチルダは忌々しげに舌打ちをする。何十年も前までは自分も誕生を祝われる側だった。今は違う。
 小さな幸福の塊を噛み砕き飲み込んだ魔女は、甘い味に眉を潜めた。自分はこの味を長いこと味わえなかったから。
 長い間……。
『ミミナガ、状況はどうなっている』
 念じるように声を送れば、気だるげな声が返る。
『異常に気付いてる生徒はいない模様……ただ同胞がよく分かりませんけど追いかけられてるようですよぉ』
 はぁーあ、というだらけきった溜め息が聞こえ、マチルダは険しい表情で声を送り返した。
『我のプランを乱す事は許さん。何かあれば直ぐに報告しろ。分かったな』
『了解〜』
 コウモリたちは所詮使い走りのようだ。
 幸せを狩り取りながら進んでいく不機嫌な魔女は、釘一家の消滅を願って拳の関節を鳴らした。


『改竄される海の溝』
『解散される海の身ぞ』
『『我々、割れ、それ、地獄のセレナーデ』』
 陽気だか陰気だか分からないメロディーと歌詩を口ずさむのは、酒菜に呼び出された双子の魚だった。一方は酒菜を支え、もう一方はエルダを支え廊下を泳いでいる二匹は低い声で魔物の歌を紡ぎ続けていた。
 そうして放出する魔力を主人とその妻に分け与え、持ちこたえてもらうためだ。
『さあ、海底は暗いよ』
『さあ、開廷だ無頼よ』
『『我々、かれこれ、地底のコンチェルト』』
 悪趣味な上意味が通じるようで通じない歌だが、それが酒菜とエルダを癒していた。呼吸が楽になる程度だが、確実に魔力の供給がなされている。
 声の低さからしてどちらも雄なのだろうか、いや、どちらでも良いが。
 不気味な歌と不気味な魚に引いているのか生徒たちは遠くから眺めているだけで近づいてくる様子はなかった。
 夫婦が目指すは妖人科。娘たちの元へ行くのだ。
 改竄され行く過去のせいで名前を忘れてしまった、愛しい娘たちの元へ。

「エル……エルリアさん? 頑張って」
「娘たちの元へ行こうな、さ……サグレィ?」

 お互いの名前すらうろ覚えになっている二人が、魚に支えられながら前へ前へとゆっくり歩く。
「これは、いけないね。ルブルベスタの定理に反するよ」
 魔女と夫の様子を目撃した芥川が鏡の中から呟き、背を向けた。
 芥川が何を始めるのかは誰も知らない。
 
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