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「#幼馴染」のBL小説を読む
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- ナノ -
〜6〜

「貴方は……」
 驚愕の眼差しでマリーンが見つめる先には、上機嫌にくねくね踊っているスパイダーの姿があった。
 廊下を歩くマリーンを見つけたスパイダーは、彼の服の繊維でもって、突然彼を締め上げた。ぐえ、という苦しげな声に馬鹿笑いしてから目の前に立ち、お久しぶり、と声をかければマリーンは突如姿勢を正したのだった。
「どもども、全く裏切っちゃってくれちゃってちゃってで御座いますぅ」
「スパイダー殿……」
 昔は大人びた性格で『御座います』も上品な使い方でしか無かった元仲間を目の前に、マリーンは戦くしか出来なかった。
 自分より格上の相手に見つかってしまったのだ。無邪気に邪気を垂れ流す蜘蛛に捕まえられてしまったのだ。
「お家を飛び出しホームレス! 今は何処に住んでるので御座います?」
「ついに貴方まで学園に使わされましたか……!」
「人のお話聞かない餓鬼は嫌い嫌いよイヤンバカン」
 ふざけた口調の直後に袖から糸が飛び出した。糸は海賊の首や腕に巻きつき、ただただ締め付ける。息が出来るか出来ないかの狭間で、海賊は蜘蛛にこう尋ねられた。

「戦士って、何処で御座います?」

 戦士。
 明星、十六夜、黄昏を筆頭とする、科学技術推進科の関係者。
 探し出して打ち倒すつもりなのだと直感で理解したマリーンは、口を割るわけにはいかないと仮面の下で決める。糸が動きを封じてくるが、好都合だった。
 身動き一つせず、声もあげなければ良い。
 痛いのには慣れている。我慢できる。
「聞いて御座いますかー? 船長ー? おういパイレーツ?」
 悪乗りしている口調のままマリーンの返答を待つスパイダーは、ふふぅん、と小さく声をあげた。飽きてきたようだ。沈黙を続ける海賊に。そして、進展が無いこの状況に。
「知らないので御座いますか? でも、知らないなら知らないって言えば早いで御座いますよね。つまり、知ってて黙ってるって話で御座いましょうね。うん成る程ー」
「……」
「いーらない」
 一瞬だった。
 急激に苦しさを増したかと思ったら体が浮いていた。
 マリーンの体は天井の方を向いていた。糸も絡みついていない。
 放り投げられたのだ。

 床と何かが衝突する音が響いた。

「ぐっ!?」
 低く濁った声が上がり、赤い派手な帽子が転がる。
 般若の面が蜘蛛の手で剥がされた。
「ぽーい!」
 子供のように、笑いながら面を放り捨てるスパイダー。女子トイレの手前に落ちた面は中空を睨みつけていた。
「私(わたくし)は裏切り者を処分する係では御座いませんので処分せずに無視して戦士を探しちゃいますで御座います! 無様にお転がりになってて下さいませ」
 すったかすったかと音がする。
 ぽっくりを履いたスパイダーが器用に走っていく音だ。
 酸素が足らない状態で衝撃を与えられた海賊は足音を聞きながら意識を薄れさせていった。人間、落ちる時は呆気ないものである。
「戦士さーん、出ないと目玉をほじくるぞで御座いまーす!」
 命に別状は無い海賊を置いて、蜘蛛が去っていく。
 
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