VSリジェクト〜1〜
ダイヤの群れに連れて行かれた先は、体育倉庫だった。宙吊りにされたまま倉庫の中へ放り込まれ、受身が取れずに床を転がる。
(そういえば体育倉庫は探してなかったなぁ)
「(ってて……言ってる場合かよ)」
倉庫の周囲にはダイヤとクローバーが集合しており、十六夜を逃がさないようにしているのがよく分かる。誰かの指図があっての行動だろう。
何故倉庫に連れてこられたのか、十六夜が辺りを見回す。それと同時に、詰まれた体育マットの上で、影が動いた。
視線を向けた先にいるのは、骸骨。
いや、骸骨の被り物に白いオーバーオールという格好の、不審者だった。
そいつがマットの上に座っていた。
「やぁ、こんにちは」
十六夜と同じくらいの背丈である人物が、のんびりと声を上げる。
「誰だてめえ」
十六夜は警戒心をあらわに言う。
「君の反撃を拒絶する」
骸骨が呟いた。
「それから、君の防御も拒絶する」
「おい、人の話聞いてるのかよ。てめえは誰だって聞いてんだ!」
「リジェクトさ」
骸骨は終始静かだった。何を考えているのか今一読めない、マイペースな空気を纏った不審者だった。
リジェクトと名乗った人物はマットから降りる。ゆっくりと十六夜に近づき、赤い髪、もみ上げに相当する部分を触る。
突然、蹴った。
「ぐっ!?」
「あのね、僕は寝ていたんだ。ずっと此処で」
腹を蹴り上げる。
「気配を探られないように、拒絶しながらさ」
拳を頬にたたきつける。
「最初から、こうすれば良かった」
十六夜はなすがままにされていた。
「ダイヤたちに頼んで、学園を守ってる戦士を連れてきてもらえば早かった」
反撃もせず、リジェクトの攻撃を受け続けていた。
正しくは。
反撃する事が出来なかった。
「今思いついたんだ。笑っちゃうよね」
リジェクトの足が上がる。蹴りが来る。分かっているのに身を守れず、蹴りをただまともに食らう。
大きな音を立てて、十六夜が倉庫の扉に倒れこんだ。
「……ど……なってんだ……」
「拒絶したんだよ」
リジェクトは特別な事ではないというように呟く。馬鹿にしたように肩を竦ませ、十六夜を見下ろし、言葉をつむいでいた。
「僕の能力は“拒絶”。一度に二つまでならね、事象を拒絶する事が出来るのさ」
蹴り続けながら、骸骨は話した。もろに攻撃を受けるだけの十六夜に拳と足で執拗に打撃を繰り出しながら話した。
「さっき、反撃と防御を拒絶したろ?」
「野郎、ざけんな!……っが!!」
「僕は野郎じゃないよ」
「ごふ……!!女(あま)かよ……」
「ぴんぽん」
一方的な攻撃は続く。狭い部屋で受身すら取れず、十六夜はただ殴る蹴るを受けていた。リジェクトは事務的に次男坊をいたぶり続ける。
「一度に拒絶できるのは二つまで。僕の気配、そのうち誰かに気づかれるかもね」
それまで、ボコさせてよ。
骸骨は、喜びか楽しみか、笑いを含んだ声でそう告げた。
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