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次男は混乱している▼

「閣下、宜しいのですか」
 モニターがいくつも設置された部屋。
 溶けたようにぐにゃぐにゃと曲がっている鉄の手すりと、一段一段大きさや傾きが違う階段に、灰色と紫のマーブル模様で彩られている壁。
 パイプオルガンのパイプを引っこ抜いて背もたれにしたような椅子に腰掛けるのは清水……の姿をとっている、グラン・テンペストだった。
「ん〜?何が?」
 中級の構成員に声をかけられ、テンペストは呑気に返事をする。
 構成員は続けた。
「回廊を裏切る者が相次いで発生しているのです」
「ああ〜、良いよ。放っときな。あの子達、役に立たなかったから要らないし」
「しかし……」
「ううん、良いんだ。後でまとめて殺すから、今は放っといて」
 ふにゃりと緊張感なく笑う青年に、構成員は深く礼をした。適当に手を振り退室を許すテンペストは、数匹のクローバーが腹の目玉で送ってくる映像に目を向ける。
「んー。今は特に攻め込む事もないねぇ。暫く見物に徹してよう。……あーっ、お祭りとか学園祭とか、生徒に化けたままだったら遊べたのになぁ、勿体無い」
 自分で言って、自分で笑う。手を叩きながらのけぞって、声を上げて。
 どうやら回廊は暫く手を出してこないようだ。


「変な所ばっか探してるせいで何処に居んだか余計分かんなくなったろうがっ!!」
 声を荒くしながら走る十六夜がいる。
 国原があまりにもマイペースに『準備する場所』ばかり覗き込むものだから、国原の中でいらいらしていた彼がついに叫んだのだ。
 代われ、俺がやる!!
 雑魚が寄ってきたらぶっ倒せば良い、と無理に交代したのだが、廊下で雷を放てばガラスが割れるし近くの教室も荒れる。そうなったら担任である長身の重力使いに4の字固めを食らって泣く羽目になるのだが、忘れているのだろうか。
(4の字固めー……)
「(うぉあ煩え!分かってらぁ!!)」
 思い出したようだ。
 下駄を鳴らして走る十六夜の前に、わらわらと紫色の影が見えてきた。
 スペードが群れている。
 よりによって年増みたいなのが群れている。
 十六夜を見つけた途端口を大きく開けてすっ飛んでくるスペード達に、十六夜は雷を放……とうとして、叫ぶ。

「やべぇ!先生にシメられる!!」

 思い出したようだ。
(拳に雷纏わせたりとか、出来ない?)
「(わりぃ、保つの一番苦手だ)」
(……あのさ、明星さんの台詞を借りる訳じゃないけどさ、ぶっ放せば良いってもんじゃないよ)
「(わ、分かってんだよ、んなこたぁ!けど苦手なもんは苦手なんだよ畜生!)」
 何とも頼りない会話を繰り広げているうちに、紫色に囲まれた。仕方ないからと全力で殴る蹴るを繰り出した。もう、あれである、不良の喧嘩みたいな光景である。
 紫の頭を掴み、膝を入れる。
 スペードがばらばらと崩れていく。
 顎を狙って肘を入れる。
 スペードががらがらと砕けていく。
 こめかみに裏拳をぶち当てる。
 スペードがばたばたと消え去っていく。
 気づくと、回りに紫色の影はなかった。
「ちょ、おい、何だこりゃ!?」
 代わりに、赤の群れが背後に控えていたのだ。
 すぐさま十六夜に飛びつき、ぎっしりと密着するダイヤ達。
 力ずくで振り回しダイヤを吹っ飛ばそうとしたが、飛ばされたダイヤはワイヤーのような腕を瞬時に伸ばし、十六夜の手足に絡み付けてしまった。
 強気な表情で浮遊しているのが、何となくむかつく。
「おいコラ!離せってんだよ!!」
 暴れる十六夜。
 だがワイヤーは次々に絡みつく。
 ぐるぐる巻きにも等しい状態になったその時、ダイヤは全員の力を合わせた。

 飛ぶ。

「んなっ!?おい、何処に連れて行こうってんだよ!おい!!こら待て止まれ下ろせくそぉーっ!!」
 十六夜を連れて、ダイヤが飛んでいく。
 誰かに呼ばれたのだろうか、行き先は決まっているようだった。
「俺は!冠橋を探さなきゃいけねえんだよ!離せ!下ろせ!ざっけんなぁ!!」
 次男坊、連れ去られる。
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