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「#幼馴染」のBL小説を読む
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- ナノ -
〜6〜

「ええと、ごめんなさい」
 交際をお断りする定番といえばこれである。
 国原は小さく頭を下げ、目の前で割りとボロボロになっている山菅彦と、墨忠を警戒しながら話を聞いている蛇橋彦へ言った。
「言い訳をするつもりは無いんだけど、八歳の頃は、種の存続とか、婚姻の契約とか、意味がよく分かってなかったから二つ返事で了承しちゃって、二匹に迷惑をかけた事を謝るね」
 頭を上げると、墨忠の大きな胸が後頭部に当たる。こんなに大きな胸の女性には会った事が無かったのか、国原は少し頬を赤らめていた。
「あの時は、能力を制御できるならって、それだけで二匹と婚約しちゃったけど、それで二匹の大切な時間を削るような事になって、ごめんなさい」
「それは、我等との約束を違えるという解釈で良いのだな?」
 山菅彦が苛立ったように声をあげた。国原を睨みつけているが、取って食おうというのでは無いようだ。
 ただ、何が何でも了承して貰おうという気概は感じるが。
「我等は二荒山の使いだ。神霊に準ずる我等との約束を破棄しようなどと考えているのでは無いだろうな、文!」
 ふわ、と小さく声が上がった。体の大きな蛇に怒鳴られ、国原は驚いていた。身を縮ませ、墨忠の腕の中に潜り込む。
 山菅彦を宥めようと、蛇橋彦が隣まで這って来るのを見ながら、国原は言葉を紡ごうと口を開いた。
「あのね、私、好きな人がいます。とっても優しくて、いつも、私を愛してるって大きな声で言ってくれて、それが少し照れちゃうけど、凄く嬉しい、そんな人。学も好きな女の子がいます。可愛いの。すっごく。人見知りしたり、喧嘩したりするけど、心が綺麗な子」
「そうか。文は今、幸せなのだな」
「此方との約束が先だろう」
 蛇橋彦が頷きながら答えた直後、山菅彦が低く唸るように返した。
 それを見ていた、国原を抱いていた人物……いや、百足が、二匹を嘲笑するかのように口を開く。
「気に入らねぇ」
 墨忠の顔を見ようと国原が見上げるが、表情を窺い知る事は出来なかった。
 大きな胸につかえて、頭が上を向けなかったからである。
「ガキに何て話持ちかけてんだべや、おめぇら。蛇っつぅのは其処まで外道だったんか、山の使いの風上にも置けねぇで」

 やっぱり胸でっかいなぁ、とのんびり考えながら、国原は二匹の蛇を見つめていた。
 
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