〜2〜
巨大な蛇がずるずるとハロウィン喫茶の窓に這い寄っていく。壁を器用に登り、窓にべったりと顔を密着させて中を覗く二匹の蛇に客は騒然とした。
赤と青の鱗が怪しく輝いている。目玉が客やスタッフを睨みつけ、目当ての者はいないかと先が二つに割れた舌が覗く。
どう見ても食らおうとしているように見えるそいつらに、平然と近づくスタッフがいた。
「……わぁ、久しぶり」
骸骨メイクの、それだった。
蛇たちは目を細め、亡者の化粧を施した雷の子に一転集中する。にたりと開け放たれた口から涎が垂れる。赤い蛇の声が窓を震わせた。
『約束は覚えているだろうな』
「覚えてるよ。でも、まさか栃木からはるばるやって来るとはね」
異様な化け物を相手にのんびりと会話する国原に、スタッフも客も面倒な部類だと認識したのか、ただ遠巻きに眺めるだけである。
青い蛇が静かに囁く。
『貴様は未だ孤独か』
「いいや」
『そうか。ならば我等は不要か』
「いいや」
何が何だか分からない会話だ。
『この敷地には赤城の百足がおるようだが』
赤い蛇は苛苛とした様子で周囲を睨む。
青い蛇が淡々とした様子で舌を出し、周囲を嗅いだ。
『其どころか茂林寺の血の者もおるようだな』
「そりゃあ、いるだろうさ。此処は割りと何でもありだから」
国原はそんな二匹を恐れるでもなく、聞かれた事には答え、世間話も交えて、再会を喜んでいるようにも見えた。
蛇たちは言う。
低い声だった。
『池の無い裏庭で待つ』
『我等の花嫁、花婿。しかと話し合おう』
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