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「#幼馴染」のBL小説を読む
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- ナノ -
〜6〜

 清水は、小さく笑う。
「こんなに便利なものをあげたっていうのに、疑うのかい?」
 その瞳は楽しそうに揺らめいていた。
「この、僕を?」
「便利すぎたんだよ。俺は、ご都合主義っていうのが嫌いなんだ」
 清水は笑った。手を叩きながら、背筋を逸らし、高笑いだった。
 それが何を意味するか、この光景を一部始終見ていた者ならば、嫌でも分かる。
「お前が黒幕だな」
「正確には、”僕たち”だけどね」
 清水の瞳が怪しく輝く。直後、淡い光が清水を包み込み、光が収まる頃には、清水の姿はなかった。
 いや、清水の姿をしていなかった。
 目の部分が青く光を帯びている、西洋の甲冑がそこにいた。
「改めて名乗ろう。僕はグラン・テンペスト。『回廊』の一員さ」


 明星キングたちは、屋上へ向かう生徒達をかいくぐり、一度校舎から出ていた。
 真島から指示された場所というのが、校舎よりやや離れた位置に存在する巨大図書室……通称、図書塔だったからだ。
 縦に長い図書室は五階建てで、中央のエレベーターにより最上階まで楽に行くことが出来る。通常ならば。
 今は緊急事態であるので、電源は全て落とされ、ストップしていた。
「うげっ……階段で行けってか!?」
「仕方ないだろう。急がねば犯人を取り逃しかねない。走るぞ!」
「うん……頑張る!」
 三者三様の反応で、らせん状になっている階段を上り始める兄弟。
 嫌に縦長なこの図書塔を今ほど恨めしく思った事はない。もう少し潰れていれば上りやすかったものを。施工主の馬鹿。
「……はぁっ、はぁっ」
 二階、三階、と階数の表示が上がっていくにつれ、三男は徐々に遅れ始めた。先程から走り続けていた疲労が、ここに来て一気に出てきたのだろう。
「へばってんじゃねぇ!エース、根性出せ!」
 十六夜が発破をかけるが、黄昏の足はふらつくばかりで速度を取り戻せそうにない。
 意を決したように、黄昏が声を張り上げた。
「僕を置いてって、お兄ちゃん!早く上に行かなきゃ!」


「『回廊』……?」
 真島が眉をひそめる。彼の問いに、グラン・テンペストは頷いた。
「知らなくても無理はないだろうね。何しろ、新しく創設された組織だもの。我々は世界を制圧し、地上をマザーの卵で支配する事を目的に動いている」
「悪の組織か」
「君達の価値観で言えば、ね」
 グラン・テンペストは、真島に近づいていく。パソコンの画面を見つめ、そして、キーボードに手を伸ばす。真島は即座にテンペストの腕を掴み、操作しようとする敵を引き止めた。
「邪魔なんだよね」
 テンペストが言う。
「何がだ」
 真島が問う。
 テンペストパソコンのモニターを見つめたまま、静かに返すのだった。
「学園の生徒達がだよ」
 学園の生徒達。彼らは時に悪と認識されるものに容赦なく牙をむく。
 特に戦士の三兄弟は、戦士を名乗っているだけあり、それが顕著である。
「邪魔なんだよ。『回廊』が活動するのに、とても。だからね、信用を落として、彼らを排除してしまおうと思ったんだけど……それにすら、邪魔が入った」
 テンペストが真島の腕を振り払う。甲冑の姿の怪人であるテンペストの力に、ただの人間である真島が適うはずはなかった。
 壁に叩きつけられ、悶絶する真島。テンペストの指が、キーボードを叩く。
 画面に『指令モード』と表示され、屋上の様子が音声として流れ込んできた。
「レーダーだけじゃない。通信機としても利用できるんだ。凄いだろう?」
 背中の痛みに耐えながら立ち上がる真島に、怪人は笑った。そして、画面に向かって冷たく言い放った。

「ボルト、フルパワーで屋上をなぎ払え」

 ボルトというのが、上空で雷を落としている人型の名前なのだろう。
「……やめろ……!」
 急いでキーボードを打ち、打開策はないかと探し始める真島に、テンペストは愉快そうに声をかけた。
「楽しみだね。充電が完了する前に、あの三兄弟は間に合うかな?」


「う、あ、あ、あああぁぁぁっ!!」
 十六夜が叫びながら走る。少しでも気を抜けば、背負った弟の重みで足が止まってしまいそうだった。
「お兄ちゃん!僕を置いてってよ!邪魔になっちゃうよ!」
「うるっせぇ黙ってろ!!諦めてんじゃねぇぞ馬鹿野郎!!てめぇが居なきゃ勝てるもんも勝てねぇんだよぉ!!」
 雄たけびに近い声をあげながら階段を全力疾走する十六夜の後ろを、明星が走る。弟達に何かあれば、自分が彼らを支えて走ろうと。
「もうすぐ図書塔の屋上に着く!頑張るんだ、お前達!」
「おうよ!」
 三兄弟は走る。図書塔の五階を過ぎ、屋上へと続く扉へと、疾走する。


 人型――ボルトは、フルフェイスのヘルメットに、黒いライダースーツという姿だった。下からの戦闘員投擲や、上空を飛ぶSORAHIME達を迎撃しながらの充電はいつもより時間がかかる。
 旋回する装置により力を増しているとはいえ、屋上をなぎ払えるだけの電力を補充するのには労力が大きかった。
「『回廊』が為に」
 ボルトは低く呟く。
 またも下から戦闘員が投げられてきたが、それを避けるのに一瞬充電を中断し、再び充電し始める。
 エネルギー充填率、10パーセント。
 
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