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〜4〜

「早瀬、頼むぞ」
「はい、先生!」
 会話の直後、陣内と早瀬瞬は妄想科の前に立っていた。
 早瀬瞬の持つ能力、瞬間移動。陣内は騒ぎが起こってから今まで、教え子のこの能力に頼りきりだった。
 行きたい場所に瞬時に行くことが出来る。彼の知らない場所へは、陣内が説明して近くに移動してもらう。
 なるべく負担はかけてやりたくないと思っているが、早瀬の能力はあまりにも有能かつ有力だった。
「……ん?何故、パウエル先生が倒れているんだ」
 足元に転がる神経質な塊に気づき、眉を潜める陣内。首元には火傷のような、若干の焦げが見られる。
「先生、これ、手形にも見えますよね」
 早瀬の助言に、焦げの意味を瞬時に悟った陣内は、急ぎ妄想科の扉を開けた。
「十六夜!いるのか!?」


 キーボードが痙攣を起こしたように騒がしく叩かれる。焦燥感を抱いた真島が、画面と紙面を見比べてはため息をつく。
 先程から雷の発生源を探っているのだが、何の手がかりもない今、知っている情報だけを映し出すパソコンも、分かっているデータだけが纏められた紙の束も、役立たずでしかなかった。
「真島、これを使ってみたらどうだ?」
 弱りきった真島に声をかけるのは、金髪碧眼の清水である。彼は”十六夜犯人説”を信じて疑わない派の人間だ。
 清水の持っている小さな機械に、真島は目を向けた。何かのレーダーのようだ。USB端子がついている所を見ると、パソコンに接続できるように作られているらしかった。
「これは?」
「先程完成した。発射されている電撃の性質を読み取り、何処から打ち込まれているのかを逆探知できる」
 清水はどこか得意げに笑った。
 真島が三日かけてやっと作れるだろうレーダーを、たった二、三時間で作るこの男に、真島は目を見開いた。


「……何をしているんだ」
 扉を開け、妄想科の面々が無事である事を確認した陣内は、一言そう尋ねた。
 目の前には、似合ってもいないメイド服を着ながら、足はしっかり下駄という十六夜ジャックの姿。
 烏帽子とヘッドドレスを両方つけているせいで豪華な感じになっている頭と、ばっしゃばっしゃ光るカメラのフラッシュ。
 メイド服のスカートから覗く青い袴。顔を覆って物凄く落ち込んでいる本人。
 非常にカオスだった。
「……センセ……俺、嫁に行けねぇ」
「落ち着け。男は嫁に行かない」
 あまりのショックに混乱しているらしい十六夜に、陣内は簡潔に返す。
「十六夜?なんか……キモくなったな!」
「言うんじゃねぇよ自分でも分かってんだからよ!」
 良い笑顔で指摘する早瀬に、十六夜は半泣きで突っ込んだ。器用にも黄色い目が潤んでいた。
「桜花先生、これは一体?」
「うちの生徒がすいません……」
 桜花先生によると、かくまって貰っている間何かお礼がしたいと口走った十六夜に対して、妄想科の生徒達(きっと一部)が自重を放り投げたのだという。
 女装をさせて写真撮影をしたりスケッチしたりと、大して萌えない被写体だというのにも関わらず滅茶苦茶自由に遊んでいたらしい。
「逃げ込む教室間違えた!ぜってぇ間違えた!俺の阿呆!」
 メイド姿で頭を抱え絶叫する十六夜を、亡女達は容赦なく撮影していた。
 もうそこら辺で許してやって下さい。


 狂骨仙太郎の所有する目玉たちが、折りたたまれた紙を結びつけて飛び始めた。
 召喚師である華周の意思により仙太郎が開始した情報の提供は、九十七の眼球により広められていく。
 その大半は教師陣へ送られるが、召喚科に所属する数名の指揮者達にも配布され、そして、十六夜ジャックを探すために現れた明星キングや黄昏エースにも渡されることになった。
『・雷は規則的に落ちる・屋上の中心は無傷・放射状に落ちてくる』
 箇条書きにされたこの三つが意味するもの。
 目玉が得た情報が、今、学園に伝わっていく。
 
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