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- ナノ -
〜3〜

「とにかく、今教室に誰か来たらやばいよね」
「十六夜君、変装する必要があるよね」
 亡女姉弟が提案する。トレント兄妹は二人の言葉に何かを察したらしく、デジカメを構えて準備を始めた。
「変装っつっても、お前……」
「「ほら、誰か来るよ!早く早く!」」
「え、あ、お、おう……」
 双子に押されるようにして教室の隅に移動させられる十六夜を見ながら、桜花先生は内心、あーあ、と呟いていた。
 さすが担任といったところか、彼らの企みに気づいていたからだ。
 そして何が何やら分かっていない十六夜をダンゴに羽交い絞めにさせた亡女達は、学園祭のためにと製作した衣装を手に、じりじり近づいていくのだった。

「は……え、いや、ちょっと待て!?俺、男だしっつうかそれ、あ、駄目……いぎゃあぁーっ!?」



「ひゃっひゃっひゃ、派ぁ手にやりやがる」
 柄の悪い声が一室に響く。赤い髪の少年を腕に抱きながら、三つ目の召喚従属はギザギザの歯を見せて笑っていた。
 学園の至る所に自分の目玉を浮かせ、部屋から外の様子を探っているのは、狂骨仙太郎。雷が届く事のない寮の部屋で、それでも主人である華周を守るかのように腕を回している骸骨は、雷が落ちる現場をいくつもの目玉で目撃していた。
「にしても、おかしくねえか」
「ぅ……何が?……雷?」
「察しが良いな。さすが華周だ、たまげたぜ。ひゃひゃっ」
 主人を安心させるためか、抱き締める力を強め、背中をさする。仙太郎はニタリと笑みを浮かべ、雷へ、とある感想を漏らした。
「規則的過ぎる」
 閃光が地を穿つ。建物が少し揺れた。
「さっきから同じ感覚で雷が降ってきやがる」
 学園の周りを浮遊する、いくつもの目玉から得た情報を、ぼそぼそと口にした。華周の身を守る為ならこの情報を誰かに売ってやっても良いと、企みながら。
「なんで、さっきから放射状に降って来るのかねぇ?華周」
「中心に、あのね……誰かいるのかも」
「何だぁ?鋭いじゃねぇか華周ー?」
 けひゃひゃひゃ。笑いながら、頭をわしわしと撫で回した。






「妄想科は避難さえまともに出来ないのか?」
 妄想科の扉が開かれた直後、高圧的な嫌味が飛び出した。パウエルがやってきたのである。
 パウエルは妄想科の面々を見回しながら、見下した表情で続ける。
「教師が教師なら、生徒もとろいんだな」
 桜花先生が気分を害したらしく、眉間に皺を寄せ、立ち上がる。それに対応しようとしたパウエルだったが、とある存在に気づき、そちらに目を向けた。
 フランス人形が着るようなゴテゴテした長袖のドレスを身に纏い、両手で顔を覆い座り込んでいる、金髪ロングの女性。
 見慣れない。
「誰かね、君は」
 神経質な声で問いかけるが、その女性は力なく項垂れているだけで、返事もなかった。
「外国からの留学生なんです」
「そう、妄想科の見学をしたいと言われました」
 トレント兄妹がすかさずフォローを入れる。
 それにパウエルは、ふん、と小ばかにしたように鼻を鳴らした。
「こんなクラスを見学?その女性は、気でも触れたのか。まったく、見学を許す妄想科も妄想科だ。馬鹿ばかりか、このクラ……」
 次の瞬間、フランス人形のような女性が立ち上がり、手のひらをパウエルの首に押し付けた。女性が座っていた場所に、何故か落ちている、烏帽子。
 ばぢりりり。
 独特の音が響き、パウエルの意識が飛んだ。

「俺をかくまってくれてる人達になんて口利きやがる」

 金髪の下に隠されていた顔は、赤い隈取の、怒ったようなマスクフェイス。
 金色のかつらを片手で毟り取ると、下からは赤い頭が現れる。
 亡女達により思い切りコスプレさせられた、十六夜ジャックだった。
 彼は自分の手をスタンガン代わりにしたのだった。
「十六夜君、やるじゃない」
「うん、両手で顔を隠すなんてよく考え付いたよね」
 亡女姉弟からの賞賛に、十六夜はがっくりと肩を落として答える。
「……マジで落ち込んでんだよ」
 というか、烏帽子、着脱可能らしい。
 どうでも良いですね。
 
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