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「#幼馴染」のBL小説を読む
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切る おまけ


 青鷺は、青鷺である。
 犬島の家に入り浸っているが、犬の精霊ではない。
 名前の通り、そのまま青鷺の精霊だった。

 彼は暗殺を生業としていた。
 金さえ貰えば、たとえ標的が以前の主でも容易く殺した。
 そんな彼が次の標的にと金を詰まれたのが、犬島千代松だった。
 まだ十二かそこらの年頃だった。
 護衛をすり抜け、隠し持っていた刃を子供に向ける。簡単な仕事のはずだった。

「殺してくださいまし」

 淡々と呟く子供に言葉を失うまでは。
 曇りガラスのような目が暗殺者を捉えた直後に発せられた言葉がこれである。
 十二歳の犬島千代松は毎日のように命を狙われ、丁度人間不信のピークを迎えていた頃だった。また暗殺者か、と冷めた目で青鷺を射抜くと、もういい、と呟き、言うのだ。
「早く僕を殺してください。それで金を貰って楽しくとんずら。いい話ではないですか」
 命だけは助けてください、と言うかと思っていた青鷺にとって、あまりにも潔いその言葉は衝撃で。
「いいのですか」
 思わず、そう、思わず確認をとった。
 間抜けな話だと思う。暗殺者が暗殺対象に、殺していいのですか、などと聞いたのだ。

「僕の手は穢れています。どうしようもなく穢れています。途方もなく穢れています。生きるのが怖い。即死ならば有り難い」

 淡々と呟く千代松を見て、正直、圧倒されていた。
 今まで殺してきた者たちは少なからず生にしがみついたものだった。抵抗したり、命乞いをしたり、逃げたり隠れたり狂ったりしたものだった。
 抵抗もせず、命乞いもせず、逃げも隠れも狂いもしない者に出会ったのは久しぶりのことで、思わず敬語で話すほどだった。
「殺せませんか」
 千代松は吐き捨てた。
「殺せないのなら、貴方に用はない」

 直後に背を強く打たれたのを、青鷺は覚えている。

 杏次郎が悲しげな瞳で笑いながら、青鷺を打ち倒したのを、覚えている。


 眼が覚めた。
 千代松の部屋だった。
 何度も襲撃を受け、そのたびに部屋を変えていた千代松の、七つ目の部屋だった。
「見張りを潜り抜けてきたことは褒めて差し上げます」
 つまらなそうに教科書をひらひら振りながら、子供が言う。
 父から何ページかやっておきなさいと宿題を出されたのだろう。つまらなそうな表情で本を捲り、頭をかいた。
 この頃から勉強はあまり出来ない子だった。
「何故私はここに」
「貴方を僕の側近にします」
「……はい?」
「いつでも僕の命を奪えるよう、貴方を懐においておきます」
「そんな真似をしなくとも、貴方を殺そうとする者はいるのでしょう?」
「下手な殺され方をして惨く苦しみながら死ぬのは本意ではありません」
 死ぬことに対してはポジティブな子供だ。
 青鷺は、やや不満だった。
「生に執着しないのですか」
 千代松は振り向かずに答える。
「執着したら寿命は延びますか」
 がりがり、と鉛筆を削る音がした。答えを間違えて、消しゴムで消しながら、千代松は青鷺のほうを見る。
「ならば、生に執着させてみてください」
「執着させて、どうするのです」
「生きるを怖がる僕を、生きるを望む僕にしてみてください。出来たら、貴方を僕の右腕として、生涯にわたって雇い、養い続けましょう」

 子供らしからぬ力強い発言に、当時十八だった青鷺は胸を強く躍らせた。

 六つも年下の子供に、少しばかり惚れた。
 偉そうに物を言ってくる、勉強の出来ない子供に、青鷺は興味を引かれ、惚れたのだった。
 そんな、昔話。
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何この子かっこいい!とかキュンとして部下になることを決めたやーつ。
2014/02/15 02:35
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