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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -
murmur饅頭
注意:擬人化・同性愛表現あり
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切る 1


「有り難う、御座いました」
 肩で息をしながら父に告げる。女であり男でもある体は以前より疲れを感じることはなくなったが、それに比例して修行の負荷が重くなったので余裕や成長を感じる間はなかった。
「次からは姿勢を維持できるようにね」
 杏次郎は手の甲で額を拭う娘兼息子の背中をさする。
 少しばかり身長が伸びたようにも思える千代松は、真っ直ぐな目で父からの修行を受け入れる。それが杏次郎は嬉しかった。
 たまに逃げ出す事もあるが、ばつが悪そうに戻ってくるのも含めて愛しかった。
「そうだ、千代松」
「はい?」
「小隊長の試験、受けたんだってね」
 小隊長。
 三人から五人といった少ない人数で割り振られる班で任務をする、その隊長となる試験を受けたのだろう。
 どうだった? と父が尋ねると、子は自信がなさそうな顔で笑った。
「結果はまだ出ていません……選考に七日ほどかかるようです」
「そう。受かるといいね。僕は君くらいの年頃には中隊の隊長だったなあ」
「え」
 のほほんと笑う主夫に千代松は固まった。
「それから暗殺部隊にも出入りしてたし、諜報部隊の司令塔を努めたこともあったねえ、懐かしいなあ」
 初めて聞いた。父がそんなに凄腕の忍だったとは。今更ながら凄い人の子供に生まれたものだと緊張を覚えた。
 普段はパソコンを相手に“だぶるくりっくって何処にあるんだい?”なんて言っていて、美味しい料理を作れて、掃除や洗濯に追われている。そんな印象しかなかっただけに。
「戻ろうか。竹千代も梅千代も待っているよ」
 のどかに笑う杏次郎に千代松が頷いた直後だった。
 千代松の頬が小さく裂けた。
 ひゅ。
 と風を切る音。
 か。
 と突き立つ細長い殺意。
 瞬時に反応した千代松が振り返ると、柱に突き立っていたのは矢だった。杏次郎は反対の方向を見る。黒い影が逃げ去るのが見えた。
「ああ、まただねえ。後で消毒してもらいなさい、千代松」
「はい、父上」
 暗殺者だ。
 家督争いの渦中にある犬島家では珍しくもない事である。
 千代松もまた家督を継げる立場にいた。それ故に命を狙われるのだ。

「千代松殿」

 道場に声が響いた。
「……青鷺(あおさぎ)殿」
 青鷺と呼ばれたすらりとした身なりの男が道場へ入ってくるのを、千代松は見ていた。
「まだ、家督争いの渦中にいらしたのですね」
 うっすらと笑みを浮かべる青鷺。
 千代松は彼を真っ直ぐ見た。
「先程の矢は、貴方ですか?」
「矢? いえ、私は知りませんが」
「……そうですか」
 ゆらりと身をしならせ千代松の傍へ歩いていく青鷺は、千代松の頬に手を当てると、うっとりとした様子で口を開いた。

「精悍な顔立ちになられましたね」

 微笑む彼に、寒気を感じる。
「千代松殿、貴方が小隊長になる暁には、是非、私を右腕に」
 熱い視線が千代松の瞳を射抜いた。
 考えておきます、とだけ告げる千代松は、父と部屋へと戻っていく。
 その後姿をうっとりと眺める男は、道場で微笑んでいた。

「……あぁ、まただ」
 うんざりした様子で千代松は零す。
 部屋が荒らされている。
 千代松の部屋にあるものといえば学習や修行の道具と玩具くらいなのに。
 お前の身なぞいつでも危険に晒せるのだと、それを伝えるためだけに荒らされる自分の部屋が可哀想に思えてきていた。
「見張りの人をか掻い潜るんだから、相当の手練だな」
 部屋を片付けようと腰を屈め、ふと視線を感じた。
 ベッドの下。
 覗きこむ間もなく飛び出してきた何者かによって。
 千代松は襲われ、意識を失った。
__________
千代松で話を書いてみる。
2014/02/12 15:17
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