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マンドラゴラ
「マンドラゴラはあるかよ?」
 山の外れで薬草を育てていた彼女に、そう声がかけられた。
 振り向いてみれば、ガン吉が木にもたれかかりながら、こちらを見ている。
「毒殺したい相手でもできたの? ドタ八くんとか?」
「ははっ、違いねえや。あの犬っころは何度ぶん殴ってもたりねえ」
 赤毛の猿は肩をすくめて、ひたり、と一歩、彼女に近づいた。射止めるような視線に気づき、薬草農家の彼女がガン吉を見返す。薄ら笑いを浮かべた甲賀の偵察役は、また、ひたり、と一歩。
「マンドラゴラなんて育てているわけないでしょう」
「だろうな。あーあ、本当にあったらいいのによ」
 ガン吉のため息が混じった一言に、彼女はマンドラゴラへ思いを馳せた。
 たしか、幻覚や幻聴をきたす……それどころか死ぬこともある神経毒を宿した植物で、ある種類のそれは、人の形をしているとか。
 不老不死の薬の原料である、という説もある、謎多き植物である。

「誰を害したいの」

 ピリリとした空気で彼女が口を開くのに、ガン吉は片方の眉を上げただけだった。この山の誰かを死なせようというのならば、彼女だって黙ってはいない。
 甲賀の猿は薬学に長けており、その意味でもマンドラゴラに近づかせるわけにはいかなかった。

「お前……っつったら、どうするよ」

「は?」
「だろうなあ……そういう反応すると思った。かあーっ! そういう年頃だろ、お前もさ。なぁに頭にハテナ浮かべてんだよ!」
 人間でありながら、甲賀の薬草畑を任されて一年。
 同年代と思われるガン吉と出会って一年。
 そういう……惚れた腫れたに興味を示してもおかしくはない年頃である。
「薬草屋を殺して何がしたいわけ?」
「もっと、こう、ファンタジー的な知識のほう引っ張り出してこい」
「不老不死?」
「それはネンガで充分だろ」
「じゃあ何」
 ガン吉とて、惚れた腫れたに興味を示す年頃だ。そして、はっきりとそれらを口に出すことが、恥ずかしい年頃だ。
 少しだけ俯いて、何やら熱を持った顔を片手で隠しながら、彼は彼女にボソボソと言うのだった。

「だから……媚薬……とかさ」

 彼女は、その言葉を幻聴だと思うことにした。
 マンドラゴラによる、幻覚、幻聴の作用だと、強く思い込むことに。
「……マンドラゴラはあるかよ?」
 赤毛の彼からの問いかけに、あるわけないでしょう、と小さく返して。