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師弟はよく似て
「師匠、最近たるんでいるのでは?」
 弟子である彼女にそういわれて、アバドンは飲んでいた茶を噴き出した。何をいきなり、と彼女を見る。人間であるくのいちは、静かに茶をすすりながら、合間合間にこう言った。
「デビチルたちが力をつけてきているのは分かっています」
「う、うむ」
「しかし、それにしては負けが続いてはいませんか?」
 好き勝手言ってくれる。アバドンは困ったようにこめかみを掻いて弟子の方を見ていた。
 彼女はチラリと師匠のほうを見て、そしてこうも言うのだ。
「フェンリルさんのことばっかり考えているから、計画が疎かになるのです」

「……何故そこでフェンリル殿が?」

「師匠はフェンリルさんにとびきり甘いですから。見ていて胸焼けがしてきます。どうせなら早く結ばれてしまえばよろしいのに」
「弟子が師匠のそういう事に口出しするものではない」
「それは失礼を致しました」
 まったく、食えない弟子である。と、師匠は思った。
 彼女はおやつの羊羹を食べ終わると、湯飲みと皿を片付けに立ち上がる。
 アバドンは面白くなさそうな顔をして、生意気な弟子を見送り……ついでに。

「お主には良い人はいないのでござるかな?」

 意趣返しを一つ。
 ばりんがしゃん、と湯飲みと皿が落ちて割れる音がして、ああ、と慌てた弟子の声が返ってきた。それを聞いてニヤリと口元をほころばせる師匠の大人げないこと。
「師匠が弟子のそういう事に口出しするものじゃありません!」
「それは失礼」
 まったく、食えない師匠である。と、弟子は思った。