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噛み付いて十月
 トリックオアトリート、と手を差し出してみれば、黒飴なんていう渋いものが渡された。
 そのチョイスに思わず飴を凝視すれば、アバドンはじとりとした目つきで彼女を見てくる。
「なんでござる? なんぞ文句でも?」
「……お菓子はお菓子なんだけどさ」
「煎餅の方がよかったでござるか」
「……うーん、何だろう、この、おじいちゃん家で出てくるお菓子たちみたいな」
「あっ、失礼な」
 軽く青筋を立ててむっとするアバドンが、彼女の手から黒飴を取り上げた。
「私の飴」
「拙者のでござろうがよ」
「さっきくれたじゃん」
「今取り返しましたぁ、拙者のですぅ」
 なんと大人げない。
 そのまま黒飴の包装を開き口に放り込むアバドンに、彼女は、ああ、と肩を落とすのだった。

「あら、お菓子がなくなったら悪戯するしかないじゃない」

 二人のやり取りを眺めていたのだろう。アバドンの後ろからフェンリルが声をかける。
 そういえばそうだ、とフェンリルの方を見る二人に、フェンリル自身はにやりと笑っていた。
 アバドンの顎を掴む。そのまま自身の口を開き、アバドンの唇と重ねる。舌を割り込ませ、無理に口を開かせて……。

「飴ちゃんごちそうさま」

 満足げに悪戯を終えたフェンリルの口の中には、黒飴。
 両手で口元を押さえて、トリックもトリートもなんてフェンリル殿大胆! と赤面しているアバドン。
 その光景を間近で呆然と見ていた彼女は、フェンリルに向かって小さく拍手をするのだった。
「姐さん……すごいです」
「あら、ありがとう」