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- ナノ -
奈落の隅でキミと
 ディープホールの底の底。
 隅っこの隅っこ。
 彼女は地に座り込み、強大なデビルと茶を飲んでいた。
 彼女の相手はゼブル。バアル三兄弟の長兄にあたる。
「セツナくんと戦ったんだってね」
「セッちゃんは強かったよ。いつか君とも手合わせしたいな」
「私は弱いよ」
「強くなるよう鍛えるまでだよ」
 彼女はハエの姿のまま器用に茶を飲む彼を見て、少しだけ笑った。デビルチルドレンである彼女を鍛えて、自分の暇つぶしに使おうというのだ。
 勝手な話だが、ディープホールはきっと娯楽が少ないのだろう。
「でも、ジャックフロストのデビゲノムを持ってる私を鍛えたところで、期待通りの強さにはならないかもしれないよ」
「ディープホールまで歩いてこられるんだから充分じゃない?」
 そうだ、ここはディープホール。並みのデビルでは立ち入ることができない地。そこにいる彼女は相当強いことになるが……。
 首をかしげているので、実感がないのだろう。
「だって誰とも鉢合わせないし。ディープホールで戦ったことないよ」
「ああ、多分引かれてるんじゃない? 生身で、単身、こんな場所まで来るんだもん」
「引かれてるのなら納得だけど……悲しいねぇ」
 恐らくそれだけではない。きっと彼女はディープホールの住人にとって、邪魔ではないのだ。だから彼女が歩くのも邪魔されない。
 邪魔ではないが、彼女は大して強くないから、隅っこにしか居場所がないのだ。
 そう見当をつけて、自分にとっても邪魔ではない彼女とこれから先、どう付き合っていこうか……茶を飲みながらゼブルはぼんやり考えた。
 ジャックフロストのデビゲノムを持つ彼女。
 ああ、せめてマオウクラスのデビゲノムを持っていれば、堂々と手合わせなり幸せなり所有なり交友なりできたのに。
「色々と惜しいんだよね、キミ」
 笑いながら、ゼブルは口惜しんだ。
 この微妙な距離が歯がゆい。