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騙らぬサギ
 魂が吸い込まれて、加工されて、妖怪になる。それが妖魔界での妖怪の生まれ方だ。一般的なものなのかどうかは知らないが。
 彼女はそこでサギの妖怪になった。
 サギ。鳥である。何らかの詐欺をした覚えもなければ、誰かを騙したわけでもない。しかし与えられた姿はサギだった。
 人間の手足が鳥のものになった姿に、彼女は最初、戸惑った。歩き方さえおぼつかなくなり、うまく物が持てない。
 雑に渡された自身の妖怪メダルさえうまく持てずに転がり落ちた。
「あ!」
 そう声をあげる間もなく、メダルは器用に転がっていく。慣れていない足で一生懸命走っても追いつけそうにない。自分の身分を保証する唯一のアイテムを逃してはならないと、彼女は一生懸命に走った。
 走って、走って、走って。
 気が付くと。
「そこの者、止まれ」
 事務的な態度の犬の妖怪の前にいた。
「……あ、あの、私のメダルが……ここまで」
「見ていた。よくもまあ、長い距離を転がってきたものだな」
 黄色い着物を着た青い犬の妖怪が彼女のメダルを拾い上げる。そうして名前を確認すると、事務的な態度でそのメダルを手渡してくる。
「青鷺火……古典妖怪になる者が出るとは」
「あおさぎび?」
「夜間にサギの体が青く光る怪奇な現象だ。お前は生前どんな生き様をしたのだろうな」
 するりとこちらに背を向ける青い犬の妖怪に、メダルを拾ってくれた礼をと頭を下げた彼女は、頭を上げて彼をよくよく見つめた。
 一度ちらりと此方を振り向いて、それから再び、宮殿のような建物に入っていく彼を。
 生前、彼女は地下アイドルだった。日の当たらない場所で、それでも光を浴びて歌い踊る、偶像だった。青鷺火というのは、その象徴だったのだろうか。
「……私の生き様か」
 妖怪の名よりも、生き様のほうに目を向けてくれた彼。
 名を犬まろというのだが、彼女がそれを知るのはもっとずっと後のことである。