二人で憧れる
狸の耳と尻尾を生やしたテルテルボーイが、テルテルボーイの目の前にいる。
身長は同じくらいにはなっているが、それでも少し小さい。
耳と尻尾を残すのは「彼女が化けている」ということを強調するためのものらしく、その気になれば消せるようだった。
「うめえけど……コピー超人がコピー超人になってどうすんだよ?」
「そう、戦術が変わらないんだよね、テルテル君をコピーすると」
「まさかステカセさんまでコピーしちゃいねえだろうな?」
「面白そうだね」
「絶対やめろよ」
ふわふわした狸の耳が風で遊ばれるのを見ながらテルテルボーイ……本物のほうは、こめかみにあたるだろう部分を指でかきながら言った。
なはは、と目の前の偽物から笑い声が上がった。声も似せられるらしい。とても気持ちが悪かった。
「ステカセキングはコピー超人の憧れだからね、流石に失礼な真似はしないさ」
「オイラは失礼な真似してもいいのかよ」
「いや、ちゃんと憧れてるよ」
「いいよお世辞は」
ぼふんと音を立てて、主成分不明の煙が舞う。そして木の葉が一枚はらりと地面に落ちていった。
目の前に視線を移せば、そこにいるのは元の狸超人だ。
「ちゃんと憧れてるってば。戦略性の高さは勉強になるし」
「戦略性で言うならそれこそステカセキングだろ、あの人のカセットテープ入れ替えの仕草見たことあるか? すげえナチュラルで、見ててわくわくするんだぜ」
「分かる。それでウォーズマンが繰り出されたときの会場の沸きっぷりったら凄いよね」
「そうそう」
元祖コピー超人をリスペクトしているらしい。二人はそのまま何事もなかったかのようにステカセキングの話題へと移行し、二人そろって昼食をとりにファストフード店へ入っていった。
ステカセキングが、と盛り上がり、ハンバーグを頬張ってまだ喋る二人に、周囲の人間や超人たちが半ば呆れて笑っていた、平和な昼下がり。