どんぐり並木を行く
自分よりもだいぶ小さい相棒と共に森を歩いていく彼女は、隣で軽口を叩き続けている彼を煩がることもなく、時折それで? と続きを促しているほど彼に甘かった。
彼……ラットルは、そうやって甘やかされることに慣れきっているのか、そうそうそれでね、とまくし立てるように最近起こったトラブルや愚痴などを彼女に向かって吐き続ける。
「もう嫌になっちゃうよねぇ、オイラこんな所で死にたくないってのに機械は壊れるわ丁度デストロンにばったり出くわすわでさぁ!」
「それは大変だったね」
「本当本当! あの時ダーダー恐竜がいなかったら危なかったっていうか、大体はダイノデブが機械壊したから起きたことなんだし、役に立ってもらわなきゃ腹の虫が収まらないところだったっていうか!」
「収まってよかった」
「そう、それであのダンナなんて言ったと思う?」
口数がやたら多いラットルと、それとは正反対に口数の少ない彼女が歩調を合わせながら偵察という名の散歩をしている朝のことだった。
灰色の鼠と真っ黒な熊が並んで歩いているのは、異様な光景だっただろう。
鹿のような動物が何事かと此方を見ているし、鳥たちも不思議そうに彼女とラットルの組み合わせを眺めてはチチと鳴き声を上げていた。
戦いとなると牙をむき爪をふるい唸り声を挙げて襲い来る熊も、ラットルの隣ではとても大人しい、穏やかで無口な性格に戻るのだ。
偶然目撃したタランスが、あの熊がいるならわざわざ喧嘩を吹っかけることもあるまいと無視を決め込んでその地区を後にしたくらい、彼女は破壊力に勝っていた。
しかし破壊力に勝るはずの彼女に向かってラットルは言う。
「もしダーダのダンナに何か言われたら迷わずオイラに言いつけなよ? 頼れる弟として何度でも助けてあげるからさ」
弟。そう、弟なのだ。
ラットルは彼女の、双子の弟である。
灰色の鼠と真っ黒な熊が隣り合って歩いていく。体格差は物凄く、得意分野もまるで違う、しかしとても仲が良い双子の姉弟が。
「頼りにしてるよ」
口数の少ない姉が、少し微笑んで鼠を見ていた。