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人間ヤメマショウヨ
「人間、やめてみないスか?」
 んひぇっひぇっひぇ、と粘着質な笑い声が聞こえる。目の前のクモ型トランスフォーマーは、クモの糸で雁字搦めにした彼女に向かってそう問いかけた。
 それがどういう意味であれ、良い事は起こらなさそうだと彼女には思えた。
「たったの五十年……いや、百年未満を生きて死ぬ予定」
 はっきり告げて抵抗もせず、相手を怖がることもない彼女は、タランチュラの忍者兵にとってみればつまらない獲物だ。もっと嗜虐心を煽るリアクションを求めたかったが、彼女はこういった度胸は据わっているので無理だろう。
「そこを何とか、トランスフォーマーになって、ね? アタチとずっと一緒に」
 表情が読めない。
 じりじり近寄ってくる彼が、彼女の喉に指をかける。
「じゃないと、今、食べちゃうッスよなーんてウヒャヒャヒャ、冗談ダス」
 どうやら執着されているらしい。
 彼女は相手がタランスだろうと接し方を変えないし、常に周囲を半信半疑の目で見ている。その冷静ともいえる距離感が好まれたらしい。
 その上彼女はタランスの邪魔をしない。いや、誰の邪魔もしない。戦力外なので大人しく基地内で待つし、仕事を阻んでくることもなければ構って攻撃もない。
 ただの同居人、という立場を貫く彼女に、タランスはついに、欲しかったおもちゃをねだるように、気に入ったペットを飼いたがるように、手元においておこうと思ってしまったのだった。
 彼女は言う。
「飽きたら殺すの?」
 彼は言った。
「向こう千年飽きる予定がないッス」
 これは大変だ。
 千年の間遊ばれる。
 不愉快そうに眉間にしわを寄せたら、いいスねその表情、とぞくぞくされた。