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平和ボケビースト
「おはよう、姉さん」
 姉とは一回り歳が離れている。二階から下りてきた私を、その一回り歳が離れた姉が抱きしめた。
「おはようッシャ、今日もあんたは可愛いわねー? あたしに似て!」
 私は今、小学生。
 その前は大学生だった。
 死んで、生まれる。転生というものらしい。正直、今でもよく分かっていない。
 前世の記憶を持ったまま生まれることなどあるのだろうか。知能はそのままで、なんて、そんな都合のいいこと。
「姉さん、朝ごはんは食べた?」
「あんたが起きてからにしようと思ってたから食べてないわよ」
「目玉焼きと玉子焼き、どっちがいい?」
「やだ、作ってくれるの? あーん、かわいい! じゃあお姉ちゃんねぇ……」
 転生よりも驚いていることがある。
 姉の名前がブラックウィドーで、さんざん夜更かしをして今も寝こけている長兄の名前がタランスだということだ。
 私が好きだったビーストウォーズのキャラクターが、人の姿になって、現代社会を生きている。この現実は、生まれて十年たった今でも未だに慣れない。
「トースト焼くね、姉さん」
「あんたは目玉焼きに集中しなさい。トーストはお姉ちゃんがやっておくッシャ」
「はあい」
 パラレルワールドというやつか。
 ぼんやりそう考えていたら、上の階からドスンと何かが落ちる音がした。
 兄がベッドから転がり落ちたのだろう。