思いつき/重い月
どうしたことだろう。許可は取ったのに。
このボロボロに裂けて崩れた顔立ちを見せた次の瞬間には、腹のうちから怒りが湧き上がるのを感じた。
あんなにいいと言っていたじゃないか。覚悟を持って見せたのじゃないか。
だのに何故何どうして、彼の表情を見て見せるんじゃなかった等と思うのだろう。
「すっげえ……あ、いや、失礼」
言葉を濁すように咳払いする甲賀の彼に、僕はおどける。
「なんすかなんすかー? あんまりに美形だったもんで見とれちゃいました?」
その冗談に一番怒ったのは相棒だった。
でも仕方がないじゃないか。僕は半分ほど本気でこの顔を美形だと思っているんだから。
顔の左半分が切り傷まみれの、この顔を。
彼は言った。
「崩れてんな」
とっても正直な感想だ。そう思う。
嫌味や皮肉や嘲笑は感じられない。冷静に見て、そう言ったのだ。
「けど、なんか、こう」
深く考え込むような仕草をした赤毛の彼が、僕を見て、僕の相棒を見て、ううんと唸った。
どういった言葉が一番似合うか思案しているのだと、僕にはなんとなく分かる。相棒は分かっていないようで、世辞ならいらない、と冷たく吐き捨てるだけ。吐き捨てた言葉は彼には届かなかったけれど。
そして彼は、まっすぐ僕を見据えて口を開いた。
「壊れゆくその瞬間に時間が止まったみたいな、芸術的な美しさがある」
あは! ねえ、聞いた? 聞いた?
彼、今すっごい事言ったよ! ねえ相棒!
「いやぁー! マジですか!? そんな大層な褒め言葉聴いたことないっすよ!」
僕は無邪気に喜び、跳ね回る。僕の大好きなこの顔が認められた。素晴らしいじゃないか!
ねえ、相棒!
ねえ!
主人格!!
僕の大好きな主人格!
ねえねえねえったら、ねえ!
(……喧しいぞ。分かったから静まれ)
相棒が、苦笑いで返してくれた。