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白昼アルマゲドン
 春神日向は部屋の中で一人きり、正座をして項垂れていた。
 正確に言うと、春神雛太が正座をしていた。
 黄色い瞳はばつが悪そうに歪んでおり、口元は引きつったかのように変に上がっている。
 静かな空間の中で、時折きつく目を閉じて、何故だか肩を竦ませて、小さな声でぼそりと言うのだ。
「いや、あの、すんません」
 誰も何も言っていないというのに一人で。
 いや、語弊がある。誰も何も言っていない、というのは間違いだろう。
 誰かが何かを言っている。ただし声には出していない。
 春神雛太の頭の中で、一人が怒鳴り散らし、一人が淡々と文句を並べ立てる形で説教をしているのだった。
(おめぇは阿呆かっつってんだ!! この体がどういう代物だか分かってんだろうな!? あぁ!?)
 頭の中で爆発音のように怒声が響く。びくっと肩を震わし、困ったような顔で笑う黄色い目の彼、もしくは彼女は、降参しているかのように手のひらを前に向けて見えない誰かをなだめようとしていた。
「いや、まあまあ……落ち着いてくださいよー鉈さぁん」
(これが落ち着いてられるかっつうんだ!! この馬鹿たれが!!)
「おぉ」
 鍵をかけた部屋の中、部屋の中央でありベッドの真横に置かれたテーブル。その四面のうち一つに座った黄色が、無人の対面席にビビるという謎の光景。
(過去に二度、蜂に刺された事があるというのに、貴様は面白半分で蜂の巣に近づいていったな? ん? 過去から何も学べぬ愚か者が、よもや身内に……それも、体の内にいたとはな?)
 脳内から響く声が低く皮肉を込めたものに変わり、雛太は苦いものを飲み込んだような表情で露骨に歯を食いしばった。濃度の高い嫌味が鳩尾を叩きのめしてくる。ぐうの音も出ない。
(アナフィラキシーを知らぬとは言わせんぞ。記憶と知識を共有する我々だ、一人だけ知らぬはずがないでな)
「……ういーす」
(死にたかったか?)
「い、いや、死にたくはなかったんすよ? その証拠にほら、バズーカタイプの、蜂の殺虫剤持って行きましたし?」
(……で?)
「でって……一回やってみたかったんすもん! だってネットでアー○ジェットでもアシナガバチ殺せるーなんて書き込み見つけたもんすからぁ!」
 若者敬語な黄色いのが、誰もいない右隣に向かって言い訳を繰り出すのを、頭の中の茶色が眺めていた。
 この軽い口調の人格は、ネットの書き込みが本当かを確かめるためにわざわざ空き地に出来たアシナガバチの巣を襲いに行ったのである。こぶし大の巣に群がる蜂たちに怯みつつも、半分楽しげな様子で。
「ご近所に被害出たら大変だったじゃないすか? ね? ね?」
 そういって両手のひらを合わせ拝みながら、雛太は体の中にいる三人に向かって情状酌量を願い出ていた。
 が。
(蜂の巣に、殺虫剤かけたら……あるまげどーん! っていう書き込みも、あったよね)
「ねー! あれ試してみたけど本当でしたよねー! もう、ぶわあぁー!! っつって蜂の大群が一気に飛び出してきちゃって焦った焦った! ……あ」
 人格四人衆の主人格、春神日向の一言に全乗っかりした愚かな雛太は、胸のうちから湧き上がる二名分の怒りを肌で感じ取り、冷や汗をかくこととなったのだった。
(そ……んな!! 下らねえ事で、てめえってやつぁ!!)
(死の危機を招きいれようとしたというのか!! この、愚か者がぁ!!)
「ひぃーっ!」

 春神雛太、一週間表出禁止。