『…ホルマジオ…』
イルーゾォが低く呟いた。その視線はキッチンの壁に掛けられた小さなカレンダーに注がれている。普段は真白の升に,先月俺が書き込んだ゙イルーゾォ゙の文字といびつなケーキの絵が(残念な事に俺には幼児程の絵心しか無い)明日の欄を彩っていた。
『…これ,明日って何の日?俺の聖誕日でもないのにケーキって……』
イルーゾォは怪訝そうな顔で振り向いた。
『ん,…まあ…あれだょ,記念日ってやつだ。』
『記念日…?俺の?』
イルーゾォは少し考える素振りをして見せ,それから微笑した。眼を細める仕草がイルーゾォの女性的な面を一層際立たせ,俺は思わず,ごくりと喉をならした。
『…明日は俺だけじゃない。俺とホルマジオの日だ』
イルーゾォは懐から万年筆を取り出し,゙イルーゾォ゙の隣に゙ホルマジオ゙と書き足した。
『ありがとう,もう一人で行けるよ。』
『…そうだな…俺も早く寝るぜ…お休み。』
『お休み…ホルマジオ。』
軋む階段をゆっくり上っていくイルーゾォの細い背中が見え無くなるのを見届けてから俺は再びソファに身を沈めた。今まで気付か無かった冬の寒気に俺は少し身震いした。
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