時刻は12時をとうに回っている。カウンターではおもむろにプロシュートがワイングラスを磨き始めた。リゾットはしょぼくれているメローネを前に淡々とカフェ・ラッテを啜り,ギアッチョは自室(とは言え,共用なので残念ながらメローネと一緒の部屋だ)に篭った。 …静かな夜だ。ペッシがシャワーから戻って来た。いつもなら次にイルーゾォが入るのだが(この2人とギアッチョは夜にシャワーを浴びる)相変わらずご就寝のようだ。規則的で静かな寝息が傍から聞こえて来る。
無理もない。イルーゾォはリ-ダーと共に今日約二週間に及ぶ遠征から帰って来たばかりなのだ。"仕事"と一口に言えど,大抵は偵察ばかりだが今回は久しく暗殺の任務が回って来たらしい。
遠征中の出来事や,どこで食べた料理が美味しかったなど,暗殺には関係のないたわいのない話をしていたが,黙りこくったままイルーゾォは寝ていた。
『…ぉい…イル,寝るなら部屋に戻ろうぜ…』
そっと肩に手を掛けて,俺はイルーゾォを揺さぶってみる
『…ふ…ぅ』
睫毛が揺れて,イルーゾォは静かに吐息を漏らした。
『…あぁ俺…寝てた…?』 漆黒の瞳が涙で濡れ,寝起きの顔にはなまめかしさが漂よう。俺はそんなイルーゾォの瞳に気を引かれ,ひと拍子遅れて返事を返した。
『ま,30分くらいだ…相当お疲れのようだぜ。今日はすぐ寝た方がいいな』
『ああ。ごめん…もっと話したかったけど…そうするよ』
ソファから立ち上がった途端にイルーゾォはよろめいた。俺は咄嗟に彼の腰に腕を回し,その痩せた体を支えてやる。
『……つっ…』
『ぉい,大丈夫か…?気をつけろ,お前は貧血持ちなんだから…』
普段から白い顔がさらに真っ青になり,呼吸も浅く荒い。
『…グラッツェ……』
額に手を当てがった。氷のように冷たい。
『しょうがねぇなあ-…ゆっくりでいい。ゆっくり歩け…部屋まで付いて行ってやっからよぉ-…』
視線を感じて後方を振り向くとメローネの奴が意味ありげな顔をしてへらへら笑っていた。
おいメローネ。いつまでもイルーゾォの腰に俺の腕が絡んでんのには何の意味はねーぜ?残念だったな,変な期待かけさせてよ。……まあ,イルーゾォが俺の隣で寝てた時にちこっと"俺の肩に頭預けてくんねーかな…"ぐらいは思ったけどこりゃあ下心じゃね-よ?思いやりってやつだ。
なんてあの顔に向かって言ってやりたかったが,イルーゾォの優先を考えて,奴には代わりに呆けた笑顔を向けてやった。
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