記念日
記念日
イタリアーノには珍しい濡れ烏の黒髪が, 痩せてはいるが端正な顔にかかっているのを,俺は随分長い間眺めていた。
時折,眉を寄せて苦しそうな表情を見せるこの黒髪の男は(一瞬,ほんの一瞬の間だが)かつての面影をうっすらと纏っている。
『…あのガキが…こんなになりやがって』
思わず口にした呟きに 我らがイタリア一の変態-…いやいや…メローネの野郎が食いついて来た。
『イルーゾォのパードレみたいな事を言うね,ホルマジオ』
『おいおい…こいつのパードレだけは勘弁してくれないか?メローネ。』
『フフッ…じゃあ恋人みたいだね,とでも言われたかったのかい?』
『ハッ!…恋人なあ-。悪くはねえなあ…』
俺は再びこの男の寝顔に視線をおとした。黙りこくった俺を尻目にメローネは次のターゲット…ギアッチョ(彼は常に狙われている)に絡み始めた。
途端に罵声と皿のようなものがキッチンから飛び込んできた。
俺はイルーゾォの安眠を妨げやし無いかと冷や冷やしたが,ギアッチョの必死の抵抗と粘着的なメローネの絡みはリーダー,リゾットの褐の一言で終焉を迎えたようだった。[ next]TOP