俺はドアを叩く音に目覚めた。日に照らされた天井には点々と黒いシミがついていて,どうやらここは俺の部屋のようだった。

『…入るよ』

軋むドアからジェラートが入って来た。

『…ジェラート,俺は…』

『まだ喋らない方がいい。傷口が完全に塞がってないからね。』

ジェラートはベッドの横の置き書きを俺に手渡した。

『これ,リーダーからなんだけど…あの子,幹部に買われちゃったらしいね…。
こことは別の所で働けるように取り計らっては貰えたんだけどね』

置き書きには,多少のねぎらいの言葉と,少年の処分方針が大雑把に書いてあった。

あの後,俺の知らぬ内に物事は片付けられたらしい。もしかしたら,俺の少年との関わりが薄ければ早々にこうした処分が下されていたのかもしれない。

俺と少年が戯れているのを傍で静かに眺めていたリゾットの姿が思い出された。

『あの時…あの子が俺に一言言ってくれなかったらホルマジオも死んでたんだ』

俺は首を傾けてジェラートの言葉を催促した。

『「ホルマジオを守りたい」だってさ…だからあの子を信じて追いかけさせたんだよ。
俺の携帯持たせてさ,したら「ホルマジオが撃たれた」って連絡が入って。すごくか細い声だったけど,まさかあの子が喋るなんて驚いたよ。』

途端に胸が締め付けられるのを感じた。

そんな。俺があいつに守られていたなんて。なんであの時,俺を必死で追いかけて来たあいつを突き放すような事を言ってしまったんだ…

『それで,ソルベが急いで携帯の逆探知から居場所探り当てて,着いたらホルマジオが気絶してた。あの子なんかもう,狂ったように泣きじゃくってて。ホルマジオもホルマジオでびっくりさ,あんな傷で戦ってたんだからね。』

ジェラートは手際よく腹の包帯を取り払い,傷を消毒し始めた。リゾットのメタリカが一匹,傷口の縫い目でうごめいている。

『まあ,今回の事はこれにて終了,リーダーがパッショーネの中でも比較的良い家持ってる奴んとこにあの子を送ってくれるよう手続きしてくれたからね。ホルマジオも早く治して,仕事しないと。』

清潔な包帯を巻き終わるとジェラートはそう言い残して部屋を出て行った。


涙が一筋,頬を濡らした。俺にはこの涙が一体何なのか,分からずに戸惑った。

…いや,分かっていたのに分からない振りをしていたかったのかもしれない。

次第に込み上げて来る嗚咽を枕で押さえ込み,俺は再び眠りに落ちた。


部屋に透き通った光の溢れる,凍える朝のことだった。





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