男の様子がおかしかった。いくら俺が声を張り上げても男は依然としてフロントガラスに銃口を向けて震えている。

しょうがねぇなあ…このまま熊手を叩き込んで早いところずらかるか…ま,この男さえ始末しちまえば,リゾットの奴からは何も言われねぇんだから…

『…ん?』

小さくなった熊手をポケットから取り出そうと脇腹に手を当てた時,俺は暗闇の中でジャケットの内側が何かでべっとりと濡れている事に気付いた。

『……何だ…?』

驚きに呻いた途端,脇腹の弾創から血液が噴水のように勢いよく吹き出た。

『…掠っただけかと思ったのに…撃たれてんじゃねーか…』

途端に視界が霞む感覚に捕われた。

…チェックが甘かったな,ホルマジオ。あの日のリゾットの言葉が頭を過ぎった。

『リ…リトル・フィートッ!!!!』

熊手を持つ腕に強烈な衝撃波が駆け上る。バネのような反動エネルギーを伴って通常のサイズに戻った熊手は俺の手を離れて男の脳天へと突き刺ささった。

男の喉から微かに聞こえる悲鳴に背を向け,元のサイズに戻った俺は車外へと転がり出た。

『ハアッ…ハアッ…うぅッ…ぐっ!!…ハアッ』

傷口を指で強くつまみ,止血しようとしたが脈打つ度に重くゆっくりと吹き出る血液を塞ぐ事はできない。目眩で足元がふらつき,俺はそのまま道路脇の草むらへと倒れ込んだ。

『…たかが男一人バラすのによぉ…こんなになっちまって…ったく,情けねぇ。』

半開きの口からそんな呟きと鉄臭い唾液がドロリと垂れ出て来た。

早くソルベに連絡を取って迎えに来て貰わなくては…携帯を握りしめて身体を起こした,その時だった。

『?!』

激しい車のクラクションが闇夜の静寂を引き裂き,男の車を取り囲むようにして2台の車が停車した。
『…は…なかなかしんどいじゃあねぇか…?今回の任務はよぉ…』

車から男が一人出て来て,辺りを警戒しながら死んだ男の乗った車内を覗き込んだ。どうやら俺の姿は闇に紛れて見えていないらしい。

男は仲間の死体を見ると,激昂して何やら叫び始めた。…頼む。このまま帰ってくれ…俺は血にまみれた手で銃を握り締めた。






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