プロシュートが遠征から戻ると俺達の任務内容は通常どうりに戻っていた。

あの報告書一枚でこの事件は終焉を迎えた様な空気がアジトに漂い,壁には鏡が再び取り付けられたのにも関わらず,少年がアジトから逃げ出す気配も無かった。

『仕事が終わったら,すぐに帰るから…また待っててくれねぇか?』

今日は暗殺の任務が回って来ている。次は確実にやれ。とリゾットからのお言葉付きの任務だ。しょうがねぇなあ…,俺は少年にそう声をかけるとアジトを後にした。

標的の男の居場所や顔を慎重に確認し,夜が耽るまで張り込みを続けた。1月の厳しい寒さは身に堪える…これじゃあ指がかじかんで拳銃なんて扱えねぇ…なんて思っていると,家から突然男が出て来て車に乗り込むのが見えた。

…まさか。バレたんじゃねぇだろうな?俺は車庫から柄の長い農業用の熊手を掴むと,走り去る車を全速力で追い掛けた。

『…!!』

男は車窓から後ろ手に拳銃を乱発し,俺の身体に何発かが掠めたようだったが,足を止めるわけにはいかない。

いつ気付かれたんだ?ったく…しょうがねぇぇえ…今カタを着けてやるぜ…車体の窪みを掴んだ。ここまでくれば十分だろう。

『リトル・フィートッ!!』

小さくなった身体で車窓の溝へと滑り込む。必死で掴まっていないと吹き飛ばされてしまう程の風の強さだ。

『…糞も凍る寒さってのは…まさに…こういう事を言うんじゃねぇのか?…ぉい…』

みるみる体温が奪われていくのが分かる。

早いとこ片付けねぇと…こっちがしんどくなるぜ…車窓の溝に沿って運転席の開け放した窓へと移動する。中では男が窓の外をしきりに振り返りながら電話をかけていた。

『チッ……仲間か…?』

急げ。男の仲間まで相手にする余裕はない。しかし身を切る寒さの中強風に煽られ,車が道を曲がる度に身体にのしかかる遠心力は俺の体力を削り取っていく。

『大丈夫だ,もうすぐで着く。車が着いたら直ぐに援護してくれ。』

男が電話を切る。車が加速し始めた。あと二歩…間に合う。男はすぐそこにいる。俺は窓を蹴って車内の男の足元へと飛び降りた。

『おいおい…どうしたんだよ?こんなに焦って…誰かに追われてんのか??ん?』

『……ひッ…?!』

男は咄嗟に拳銃を握り締めた。銃口はフロントガラスに向けられている。

『ぉい…ここだぜ』

男の足元で叫ぶ。男がこちらを向かないと照準がズレる恐れがある。悲鳴の一つもあげさせずに殺らなくては。

『ぉい!!何やってんだお前!こっちを向けッ!』

いくら叫んでも,男は拳銃を握って奮えるばかりで声の元に見向きもしない。




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