第78χ 魔眼探偵、海藤瞬@




中二病の患者は何かと物事に感化されやすい体質にあるようだ。私が言いたいことは勿論、彼のことだ。

「どんな謎も俺の眼から逃れることは不可能!俺の名は魔眼探偵、海藤瞬!!」

雨の中、傘もささずに彼は黒いハットとマントを羽織ってビシッとセリフと共にポーズを決めている。この間まで一流ソルジャーの漆黒の翼ではなかったのか。

「海藤くん、そんな格好だとまた風邪引くよ。」
「ん、あぁ...平凡悪いな。」

また雨に濡れて風邪でも引いて、ダークリユニオンの細菌兵器を撒かれてはたまったものでない。私は彼が濡れないように自身の傘に入れてあげる。

「バカじゃねーの、オメー。」
「貴様にだけは言われたくないわ!!」

今回ばかりは燃堂くんの言葉に賛成する。学校にコスプレしてくるのは如何なものかと思う。本人は楽しめている様だが、周りで見る人間の精神的ダメージを考えてもらいたいものだ。

解説が遅れてしまったが、海藤くんが扮しているキャラクターについて説明すると、そのモデルは今巷で話題の探偵ドラマのキャラクターだ。タイトルは魔眼探偵ジョーカー。右目に宿る視力7.0の力とIQ6000の頭脳を武器に難事件を解決する推理サスペンスだ。

私も一応推理モノには興味があって録画した後に見る程度であるが、いかんせんトリックの底が浅すぎて面白みに欠けてしまう。これは推理として見せたいというよりも、探偵役の六神通を宣伝する目的なのだろう。彼の口癖であるなぁるほどぉーが気に食わなくて、そこの台詞だけは飛ばすようにしている。

探偵気分の海藤くんの言葉を聞き流しながら今日も学校へ。昇降口までやってくるとざわざわといつもと間違って何やら騒がしく、人集りもできていた。

「この騒ぎは...ぐっ!右目が疼きやがる...!事件のニオイだぜ...!」

探偵は五感をフル活用して事件を見つけてくるらしい。だから某探偵少年は毎回行くところ、事件に巻き込まれるのだろう。彼のおかげで少し私の中で謎が解けた気がする。

海藤くんは人混みをかき分けて事件現場に向かって行く。私達も次いで進んで行けば、昇降口の硝子戸が破られていた。

「クックックッ...んなぁるぅうーほどっ...!」

何がなるほどなのだろうか。海藤くんが嬉しそうに目を輝かせている。残念だけれど、それは君の事件ではなくて学校側の事件だ。私達が介入するところではない。

私はいつものように下駄箱に向かおうとすれば魔眼探偵に止められてしまった。彼曰く、事件現場にいた人にはアリバイを聞く必要があるから残るようにとのことだ。なんとも面倒くさい。仕方なくそこで探偵の推理さばきを見届けることにした。

彼の魔眼に最初に留まったのは昇降口で傘を畳んでいた灰呂くんだった。

「灰呂警部!」
「あぁ、海藤くんおはよう...警部?」

彼にこっそり今は探偵になりきっているから話を合わせてほしいと耳打ちすれば、理解した様に頷いてくれた。そして灰呂くんはわかる範囲で何が起きたか話してくれた。

どうやら第一発見者は松崎先生らしい。朝、昇降口の鍵を開けに行った時に発見したとのこと。昨日の夜も松崎先生が戸締りしたそうだが、その時点では割れていなかった様だ。
そのことから松崎先生が戸締りして発見するまでの時間の夜11時から朝5時が犯行時刻だと思われる。

詳しく知らないと言いながら、十分すぎる情報を持っていた灰呂くんは流石だと思う。傘を置いて来たばかりの様子の灰呂くんがここまで知っていることが私としては気になるけれど、それは置いておこう。

「他に何か変わった事は?」
「...ああ、もう一つある。」

灰呂くんから提示されたもう一つの情報は、校長室前の壺がなくなっていたということ。

「なるーほど...!完璧にわかったぜ..!」

魔眼探偵の瞳がキラリと光っている。多分、その推理はハズレな気がしてならないのだけれど、魔眼探偵の推理ショーの始まりである。





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