第52χ まっすぐな愛を君に@




時は昼休み。私は珍しく食堂で昼食を摂っていた。
普段はお母さん手作り弁当であったり、購買でパンを買ったりするのだが、今日は午前の授業が終わったところでとある人物にいきなり呼び出されてしまったため、仕方なく食堂を利用している。

私の他にも楠雄くんと...名も知らぬ少年が一緒に食事をしている。その名も知らぬ少年が私をここに呼び出した原因でもあるのだが、いかんせん思い出せない。

私は知らない内に丸々一年分の記憶を無くしていた。きっと彼は私の無くした一年の間に転校してきたのだろう。予想外の相手に私の内心は穏やかじゃない。
今までは記憶をなくす前の出来事と現状の立ち位置を把握することによって、記憶を無くしている事を周囲に隠してきたけれど、彼の存在が私が今まで積み上げてきたものを簡単に壊そうとしている。
さりげなく少年が誰なのか知りたいのだけれど、楠雄くんは普段から口を開くこともないし、本人に聞くのと怪しまれてしまう。さて...どうしたものか。

「板野依子、オレと同じ十組みの女子っス。どうにか彼女に告白したいんスけど、中々うまく切り出せなくて...同性の仁子ちゃんの意見を参考にさせてもらうっス!」

期待に輝く瞳が刺さって痛い。私も恋愛経験なんてほとんどないし正直答えられる気がしない。それに、私の好きな人が目の前にいる状況で話せなんて顔から火が出そうなのだけれども!
それでも少年の目は真剣に私を見つめてくるものだから断りにくいのもまた事実で...参考になるかわからないけど、と言葉を付け加えて彼に協力することにした。
これをきっかけに彼と関わる事で何か思い出せるかもしれないし。これぞまさにWIN-WINな関係だ。

「それはわかったけど、何に対して答えればいいのかな?漠然とした中で語るのは結構難しいのだけれど。」
「そうっスね...彼女のことに関して誕生日、血液型、身長、体重、スリーサイズ、趣味と特技、子供の頃のあだ名、買っている犬の名前、それに彼女の身体にあるほくろの数までは知ってるんスけどね。彼女がどういう告白され方が好きなのかは謎なんスよ。」

...何言ったんだ、この人は。ここまで1人の人間について知り尽くしているのは、両親かそれに準じる人間くらいだと思われるのだが。
じわりと込み上げていた恐怖心に、咄嗟にポケットから携帯を取り出して楠雄くんに助けを求めるように視線を送れば、やれと言わんばかりに頷いてくれた。

「ちょっ、待って欲しいっス!好きな子のことなら何でも知りないと思うのが普通でしょ?!」
「その気持ちはわからなくないけど...正直犯罪の匂いしかしなかったよ。」

あの量の情報を彼はどうやってそこまで調べ上げることができたのだろうか。彼について、もう少し様子を見る必要がありそうだ。

焦れったいといよいよ自身で告白することに決めた少年の後を追って、私達は場所を移した。

「女の1人や2人くらい...簡単にゲットしてみせますよ...!」

コラ、彼女の飲み干したパックジュースを拾うんじゃありません!





*まえ つぎ#
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