第92χ 劇団!Ad Libitum(前編)A




私達の物語は本番前日の部室から始まった。

「突然ですが私達演劇部は、明日の部活動説明会で桃太郎を行うことになりました。」
「桃太郎って...マジで言ってんの?劇も無理してやんなくてもいいよくねぇか?」
「オレも窪谷須さんに同意するっス。桃太郎なんて古臭くて女の子にモテなさそうだし。」

話を聞いての通り、ここは演劇部だ。
演劇部は部員が4人しかおらず、規定の部員数を満たすことができていないため現在廃部の危機に追い込まれている。
なんとか部員を増やさなければと躍起になっているところに舞い込んで来た話というのが、新入生向けに行われる部活動説明会だった。

それにもかかわらず面倒だのダサいだの、部員としてやる気が微塵も感じられない。本当に廃部になるという意識はないのか。しかし、今更部員の意見なんてどうだっていいのだ。私がやりたいことをやり通す。ただそれだけ。

遅れてしまったが一応部員を紹介すると、まず部長はこの私である平凡仁子。演劇部を愛しているのはこの中で私に匹敵する人物はいないだろう。

2人目の面倒くさがりな彼が窪谷須亜蓮。やる気があるときには機敏な動きを見せるのに、毎回エンジンのかかりがかなり遅いのが致命傷だ。

3人目の女の子のことしか頭にない部員は鳥束零太。ナルシー零太でも、たらし零太でも好きに呼んでくれて構わない。

そして、まだ一度も声を発していない4人目の部員が斉木楠雄。彼に関して私から何も言うことはない。地味とかではなく、彼が2人に比べて優秀なのをよくよく理解しているからだ。

「もうこれは決定事項なのでやるだのやらないだの議論は必要ないので...次に、行くね。」
「や、やるにしても人数が足りねぇだろうがっ!」
「そ...その通りっス。この人数でどうやって桃太郎をやるつもりなんっスか?」

ブーブーと文句ばかり垂れる2人に今期最高の笑顔と共にピシャリと閉口させるも、確かに2人の指摘は的を得ている。
しかし、人数不足ごとで簡単に諦めようなんてなるはずがない。なぜならば部の存亡がかかっているからだ!

「その点は大丈夫。4人でもできるようにちゃんと昨日考えて来たから。」
「そう...なんスか?けど、なんで桃太郎?地味だし、話分かりきってると思うんスけど。」

なぜ、今時桃太郎かって?それはまったくの愚問だ。
そもそも演劇に古いも何もない。こういう有名どころの方がみんな頭に入っている確率が高いということが大事なのだ。
物語を多少アレンジしたところで本筋が変わらなければ、混乱を起こすことも少ない。そして、物語を知っているからこそアレンジが際立って、上手くやりきれれば盛り上がって人気が出ること間違い無し!

アレコレと3人にいかに桃太郎という題材が適しているかを懇切丁寧に話せば、一応は納得してもらえた模様。あとは桃太郎が面白くなるかは私の腕にかかっている。益々私の中で気合が溢れてくる。

「ちゃんとアレンジ部分も考えてきてるから、この台本をよく読んで明日まで言えるようにしておいてね。」
「マジでやんのかよ...斉木もいいのか?本当にこの内容でやるんだぞ。」

話を振られた楠雄くんの方へ視線を向けると台本をじっと読むだけで特にダメだとか良いだとか、リアクションをするわけではない。ただ、嫌だと言わないところ私の演劇に対する情熱は伝わっているだろう。彼は本当に理解が早くて本当に助かる。





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