私の通う学校には様々な人達がいる。
美少女、霊能力者、中二病患者、元ヤン...細かく見ていけばもっと沢山の特徴を持った人がいるだろう。
そんな個性豊かな学校で一際輝く...もとい、猛威を振るう特別な個性を磨きに磨き抜いた一人にスポットを当ててみようと思う。
それはある日の昼休みのこと。
お手洗いから教室に戻ろうとする廊下を歩いていたところ、ついに遭遇してしまった...彼に。
彼は金剛先輩。深く入った額の剃り込みと真冬にも関わらずに制服をノースリーブにカットして見事に着こなす姿がとても特徴的だ。
その気性は見た目を裏切らず荒く、少しでも気に入らないところを見つけるとすぐ噛み付きにくるなんとも迷惑きわまりない人だ。
そんな人が私の向かいから歩いてくる。...これは危ない。その表情はニヤニヤとしていて、今にも何か仕掛けてきそうな雰囲気が漂っている。
しかし、私もここに留まっていたり、わざわざ彼のためだけに遠回りするわけにもいかない。あと数分で次の授業が始まるからだ。
一歩、一歩と距離が詰まってくる。緊張に手にじんわりと汗が滲む。
そして擦れ違いざま、ふと耳に届いた言葉のまま反射的にしゃがみ込めば、私の頭の上を掠めたのは金剛先輩の豪腕。
私は今の殴られようとしていたのだ。下手したら病院送りになりかねない拳。あの声が届かなかったら私はどうなっていたことか。慌てて立ち上がって何事もなかったかのように教室に向かう。
「テメェ...何避けてんだコラァ...。金出せやァ...!」
ドスの効いた先輩の声が廊下に響き渡る。聞いての通り私は今、金剛先輩にカツアゲされようとしている。先輩に掴まれた右肩がミシミシと音を立てて悲鳴を上げている。
「や...やめてください!お、お金なんてないです...っ!」
先輩と目を合わせないようそっぽを向きながらあたりを見回して助けてくれそうな人物を探すも、みんな先輩と関わらないようにしているのか、誰一人この声を聞いても教室から出てくる様子はない。
先輩がもう一度拳を構える。...これは避けられない...っ!
「コラァ!!何をしている!?」
「チッ...んだよ松崎ィイ!!テメーには関係ねェだろ!!」
そこに偶然にもやってきたのは松崎先生。職員室から遠いこの場所になぜ先生がいるのか。次はこの近くで授業でもあるのだろうか。それはともかく助かった...。
先輩は先生の威圧感には流石にかなわないようで捨て台詞を吐くと走り去ってしまった。
「悪かったな平凡...アイツは元俺の教え子でな...。全く...困ったやつだ...。」
「いえ、助けてくださりありがとうございます。」
恐怖と緊張で小さく震える脚に力を入れてぺこりと先生にお辞儀すると教室へ急いだ。
そして時は流れて、下校時間。
今日は遊びの誘いもないし、帰ったら何しようかと頭の中で計画を組み立てていると見知った相手がそこにいた。否、今一番に出会いたくない相手だ。
金剛先輩...今日の出来事があまりにも気に入らなかったのか、ブツブツと呟いている。
ここで見つかったら袋叩きは間違いない。先輩に見つからないように逃げようとした刹那...なんと目敏いことか。見つかってしまった。
「ちょうどいいところに会ったな...今度は殴らねぇから金貸してくれや...」
「...嫌です。」
この人のやっていることは貸し借りではなく恐喝。一回金を出したら最後、一生金ヅルとしてこの人に絡まれ続ける。そんなのごめんだ。
いつまでも財布を出そうとしない私にイラつき始めたのか、声を荒げて再度私を恐喝する。
「早くしろや!持ってんだろ!?しいたけ!!しいたけ早く出せよしいたけ!!」
「..しいたけなんて持ってません!!」
金剛先輩の威圧と意味がわからない発言に震えながら言い返せば、私は先生から逃げるように走り出した。
先輩は自身の言葉に困惑しているようで今度は追ってくることはなかった。それにしてもしいたけって...。
次の日、先輩は真人間になったかのように頭を丸めて制服もしっかりと着込んでいるという噂が広まり、私も恐怖心半分、興味半分の気持ちで人混みに紛れながら三年の教室を覗き見る。
そこには噂通りの姿の先輩がそこにいた。
彼に何があったのか。しいたけが彼の何を変えたのか。それはまったく想像がつかない。
しかし、これだけは言える。人間は必ず変われるということが...!
みんなもしいたけを食べよう!