第90χ 拍手喝ψ?!カラオケ大会!A




次歌う番は燃堂くん。
彼は見かけによらず母親思いだったり、走るのが早かったりと予想外の一面をよく見せてくれるから、今回も少しばかり期待していたりもする。そんな彼は楠雄くんにマイクを差し出している。

「なんだ?燃堂と斉木がデュエットするってよ!」
「つーか斉木がうたう所想像できない〜」

まったくその通りである。
私は彼の普通の声すらまともに聴いたことがない。どんな声色で歌うのか、とても興味が惹かれる。
先ほどの暗い気持ちはいつの間にか吹き飛んで、今か今かとワクワクと彼が歌うのを期待して待っていると、突如停電が発生。騒つくみんなをよそに、私の脳裏をよぎる先日の光景にその場から逃げ出してしまった。

パッと全体の電気が回復した時には私は部屋の外に出ていた。丁度扉のすぐ側に座っていたこともあって、容易に抜け出すことができた。別にその場にいれば済む話だったのだが、あの暗い中で楠雄くんと同じ部屋にいるというシチュエーションに私が耐えきれなかったのだ。

「...はぁ、お手洗いに行ってこよう。」

お手洗いで気持ちを切り替えてみんなのいる部屋に戻れば、先程とは真逆で誰かの通夜でも行われているんじゃないかと思うほどに静まり返っていた。

「ち、知予ちゃん...大丈夫!?」
「仁子、無事だった...んだね。」

机に突っ伏している知予ちゃんの肩を揺らしてみれば、やっとこさと起き上がって私を見つめてくる。その顔色は真っ青で瞳もどこか虚ろだ。
彼女が指差した先...そこには歌い終わって一人だけスッキリとした燃堂くんが立っていた。

「オレっちの優しい歌声に眠っちまったか〜?」

もう一曲歌おうとする燃堂くんに非難轟々。
その歌声がどれだけ凄まじかったのだが、想像すらつかない...聴きたいような、聴かなくてよかったと変なところで複雑な気分になってしまった。

みんなが意識を取り戻したところで次歌う番は楠雄くんのようだ。画面の前に立たされた彼の顔はしまったと言うような感じだ。やっぱり歌うことが目的ではなかったようだ。
画面に表示されたGO!GO!はっちゃけサンバの文字。彼にはあまりにも似つかわしくない。恐らく適当に入れたのだろう。それでも歌声が聴けるならと聴き入る体勢を作る。

ふと歩き出した楠雄くん。もう一つの手に握られたマイクは...燃堂くんの元へ。まさかの悪夢のデュエットか。

「いいせ。ちょーどうたい足りねー所だったぜ。」
「オ...オレトイレ行ってくるー!!」
「わ...私ももれちゃうわー!」

先程の地獄を体験した者達は逃げ出すような部屋を出て行く。残ったのは私と燃堂くんと楠雄くん。
燃堂くんは歌う気満々でリモコンを操作して、楠雄くんはこの店で一番人気のグランドチョコレートパフェを美味しそうに頬張っている。
そこで私はようやく納得した。彼がこんな場に来てまでやりたかったことの正体が。

その姿に私の喉がゴクリと音を立てる。
向かった先は、扉側の電話の元へ。

「すみません、グランドチョコレートパフェひとつ。」





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