仲直りの方法







「…なぁ、もういい加減機嫌直せよ、霧野」

「…………………」


さっきから何回目だろうか。
目の前のピンク色した頭の奴はへそを曲げてしまって何度名前を呼んでも一向にこちらを向いてくれない。

それでも大事な友達……というか、恋人に顔も見てもらえないどころか会話もしてもらえないなんて辛すぎる。
俺は鼻の奥がツンとしてきたのをぐっと我慢して、再び彼に話し掛けた。


「女子に間違われるなんて、お前は…よくあることだろ」

「…………………」

「……………蘭丸?」

「……だって、俺だけ間違われるのっておかしいじゃん。納得いかない」


下の名前で呼んだらやっと返事してくれた……けど、相変わらず機嫌が悪い。

…そう、俺の恋人は外見があまりにも美しくて『今日も』また性別を間違えられてしまったのだ。
学ランを着ているにも関わらず間違えられるって本当にすごいと思う。

まぁ、女の子に見えるのは外見だけで、性格は誰よりも男らしいのだが。


「……拓人だって、女顔のくせに」

「…お前程じゃない」

恨めしそうにジトリと俺を見てくる蘭丸にすかさず返す。
確かに不本意ではあるが、俺も女に間違えられたことがある。
ただし、それは必ず蘭丸が隣にいた時であって、俺一人の時で女に間違われたことはない。


「………もう拓人なんて知らねぇ…」


俺に自分の方が女顔と言われ、いよいよ蘭丸の機嫌は悪くなった。
…もしかしたら、いや確実に俺は非常に面倒なことをしてしまったような気がする。
昔から蘭丸は怒ったり嫌なことがあったりすると口数が減り、何に対してもやる気がなくなるのだ。
こうなったが最後、ありとあらゆる方法で蘭丸の機嫌をとって気分を盛り上げなければならない。
最近は怒ることも少なくなって蘭丸のご機嫌とりなんて小学校以来やってない気がする。

……えーっと、確か昔は一緒にサッカーして、帰りにコンビニでアイスを買ってあげたら機嫌直ってたような…。


「………えと、…霧野……」

「…下の名前で呼んでくれなきゃ返事しないから」


………ほら来た。
怒ってる時の蘭丸のご要望は絶対だ。なるべく逆らわずに言う事をきいていれば引き続き会話をすることができる。

「…蘭丸、これからサッカーしないか?」

「…拓人クン忘れたんですかー、今テスト週間ですよー?」

「………うっ…!じゃ、じゃあアイスはどうだ?コンビニでアイス買って帰らないか?」

「俺はもうアイスでつられる程子どもじゃないんですー!」


ふいっとそっぽを向いて、蘭丸はスタスタと数歩先へ歩いて行ってしまった。

……………そうか…。
もう、子どもじゃ…ないもんな……。


まるで自分に言い聞かせるように心の中で唱える。
少し先を歩く蘭丸の背中が、俺が思ってたより大きくて驚いた。
いくら女顔だからって、それは顔だけの話である。ごつごつした手とか、意外に筋肉のある腕とか、体つきはちゃんと男なのを俺は知っている。


なんとなく、蘭丸と初めて手を繋いだ時のことを思い出して無性に恥ずかしくなった。



「……それじゃあ、子どもじゃない蘭丸はどうやったら機嫌を直してくれるんだ?」

「…………それは、」


待ってました、とばかりに振り向いた蘭丸は俺を真っ直ぐ見たまま、人差し指をそっと自分の唇に当てた。
そしてこう言い放ったのだ。



「拓人がここにちゅーしてくれたら機嫌直してあげる」

「……なっ、…はぁ!?」


何言ってるんだ蘭丸の奴!!
ここ外だぞ!?…その前に俺からキスとか絶対嫌だ!!!

「…あ、ちゅーしてくれないと明日の朝からお前ん家まで迎えに行かないからな」

「……えっ!?」


にやにやしながらこっちに近づいてくる蘭丸を見ながら「やばい」と思ったのだが、いつも一緒に登下校している蘭丸が明日の朝から迎えに来てくれなくなるのだと思うと、キスの一つくらい安いものではないかと、些か混乱状態の脳みそが言っていた。


「………な?俺と一緒に学校行きたいなら……ほら、ここにちゅーして」

電信柱の陰になるよう、塀に押しつけられ、俺の頭は混乱と羞恥でいっぱいだった。
だって、今は幸いここの通りに人はいないが、いつ人が来るか分からない状況でキスなんか………!

…あー、駄目だ。なんか涙出てきた…。
なんで俺、蘭丸にこんなことされてるんだろう。こんなことなら最初っから蘭丸が女顔だなんて言わなければ良かった…。


「どーすんの?ちゅーするの?しないの??」

「…うぅぅ……」



数センチ上から見下ろす蘭丸を見上げて、俺は漸く覚悟を決めた。

「……よし、蘭丸。目、瞑ってくれ」

「…やっとやる気になったか」


だってしょうがないじゃないか。蘭丸が明日から一緒に学校行ってくれないとか言うから、俺は………!



周囲に人が来る気配がないか、細心の注意を払って、そっと唇を近付ける。
確実に蘭丸の唇にくっつくように、両手で蘭丸の頬を包んで……………そっと、口付けた。



「………………はい。…これで、いいんだろ?」

「うん…上出来だよ、拓人。これからはこの方法で俺の機嫌直せよ、…な?」



さっきまでニコリともしなかった蘭丸は急に花が咲いたように、にっこりと綺麗に笑った。
…まさか、これからも蘭丸の機嫌が悪くなったらこの方法なのか……!?

とんでもない事になってしまい、頭を抱える俺なんて知る由もなく蘭丸は俺の手を握って上機嫌だ。


「たまには怒ってみるもんだなー」

「…!?もしかして霧野、こうなるって最初っから分かって………!!?」

「えー?なんのことー??あと、名前で呼べって言っただろ?また拗ねるぞ」

「……くっそ、タチが悪い」


小声で呟いた言葉は幸い蘭丸の耳には届かずに、空気へと溶けていった。








end

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初蘭拓でした。
テーマはツイッターのお題診断か何かで出た『キスで仲直りする蘭拓』なのでしたwww




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