ヒロトと世間一般でいう、恋人同士とやらになって早3ヶ月。
オレたちはびっくりするほど何もありません。
ヒロトの部屋にあるベッドに寝転んで雑誌を捲る。今見ているのはサッカー雑誌じゃなくてファッション雑誌。
ヒロトもこーいうの見るんだな、ってからかいながら見始めて既に15分くらい経過していた。
いつも週末になるとお互いの部屋を訪れ、なんとなく一緒にいる。
でもこれは別に付き合う前からやっていたことであって、今さら特別感は抱かない。むしろ週末に相手の部屋に行かない事のほうが変な感じがするくらいだ。
ちらりとヒロトの方を見やれば勉強机に向かって何やら大変難しそうな本を読んでいた。
休日にまで勉強って、どうかしてるよ…。
そっと溜め息をつきながら手元の雑誌に目を落とす。
丁度開いていたページにはでかでかとした文字で『彼女にしてもらいたい事ランキング』と書かれていた。
彼女にしてもらいたい事……、か。
ヒロトと付き合って3ヶ月。
そろそろ何かあってもいいんじゃなかろうか。いや、これはもうオレからアクションを起こすしかないのでは…!?
オレだって男だし、好きな人と手繋いだり、ぎゅってしてもらったり、……ぶっちゃけチューもそれ以上だってしたい。
再び雑誌に目を向ける。
小さな活字と写真が所狭しと並んでいるページをじっくり見ると、1位には『ボディタッチ』と書かれていた。
………なるほど…!
………ボディタッチ…!!
目からウロコが落ちる…、とはこういう時のことを言うのだろう。
今までたくさん一緒にいる時間はあったけどボディタッチ…、身体を触ったりする事ってなかった気がする。
よく考えたら恋人らしい事するのって、ボディタッチ絶対必要じゃん!!!
パタンと雑誌を閉じて、改めてヒロトに向き直る。
相変わらず難しい本をすました顔で読んでいて、思わず見惚れ………って!見惚れてる場合じゃないぞ、オレ!!
今日こそは、恋人らしい事をして一歩くらい前進したい。
のそりとベッドから起き上がり、そっとヒロトに近づく。
お互い会話がなく、静寂に包まれた部屋にオレの動く音がやけに大きく響く。
そんなオレの気配に気付かないヒロトではなく、目の前の人物は椅子をくるりと回してこちらを向いた。
「……緑川?どうしたの?」
「…え、…っと………その」
…やばい。近づいたのはいいけどボディタッチって、身体の何処を触ればいいんだ!!?
両手を前に突き出してダラダラと冷や汗をかくオレを不思議そうに見つめるヒロト。
なんだこの居たたまれない空気…!
なんとかしなきゃ……!ボディタッチ……、ボディタッチ…!
身体を……さわる…!
「…みどりか、」
「ひ、ひろと嫌だったらごめんんんんんん!!!」
ヒロトの言葉を遮って錯乱状態のオレはとにかく抱きついた。
もはやタッチどころではないが、今そんな事を考える余裕なんてなくて、ヒロトの肩口に真っ赤になっているであろう顔を埋めて、ひたすら自分のしでかした行為を後悔するしかなかった。
「…どうしたの、急に……」
ヒロトの胸がドキドキしているのが聞こえてきて自分までドキドキしてくる。
「……いや、なんて言うか…。えーと、なんか急にヒロトに抱きつきたくなったというか…?」
オレの不可解な行動に対してのヒロトの反応が非常に気になったので、恐る恐る顔を上げる。
数分ぶりに見たヒロトの顔はやっぱりいつも通りで、特に嬉しがってる様子は見られなかった。
あまりに反応かなさすぎて逆に不安になる。
恋人らしいことがしたくて頑張ったはずなのに、思いっきり空回ってしまったのではないだろうか。
オレは溜め息をついて、一言。
こーいうの、嫌い?
(そうだよね。やっぱ嫌だよね…。ヒロト、急にごめん…)
(……こんな可愛いことしておいて、後で待ったとかなしだからね…)
(………え?)
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