………さて。
今日はどんな性格でいってみようか。



騙しあいっこ






私は緑川リュウ。高校2年生。
演劇部の部長をやっている。

昔っからお芝居やミュージカルを見るのが大好きで、中学校の頃から演劇に携わってきた。
演劇の魅力。それは普段の自分とは違う自分を作って演じられること…だと私は思う。


そんな演劇好きが日常的に現れることもしばしばある訳で。
ここまでくればもう、私の特技、…と言うか体質と言ってもいいかもしれない。



「リュウちゃんって色んなキャラ持ってるよね〜」

いつだったか、昔友達にそんな事を言われた事がある。


……そう。
私は自分の性格を自由に演じることができるらしいのだ。
最初は自分でもよく分からなかったけど、友達に面白半分で色々なキャラをやらされて自覚した。

『お姉様キャラ』『妹キャラ』『ツンデレキャラ』『クール系無口キャラ』『天然電波キャラ』……。
友達にやらされたキャラを挙げればキリがない。

でもそうやって色んな性格を演じてきた経験が、今度の戦いで大いに役に立つかもしれないのだ。




今度の戦い―――…それは近々行われる、予算会議のことである。
その会議において最大の決定権をもつ男が、同じ学年にして生徒会長の、基山ヒロトなのだ。







「…今日こそ予算の話ちゃんとしなきゃ…!」

毎回、顔を見るたびに予算を上げるよう、様々なキャラで迫ってみるのだが、彼は上手く話をはぐらかしてしまうのだ。
私の演技不足も問題なのかもしれないが、顔は同じなのに性格が毎回毎回コロコロ変わるのを見て、きっと彼もおかしいと思っているに違いない。

予算会議の日にちも近づき、そろそろ決着を付けなければならない今、もうなりふり構ってられないのだ。






決意を新たに、校内の廊下を歩く。
まだ朝早いため廊下を歩く生徒も少ない。
生徒会である基山ヒロトはこの1週間、服装点検だとかで校門の前に立って私たち生徒にきちんとした身だしなみを呼び掛けている。
顔も良くて品も良い基山ヒロト。
運動もできて勉強もできるとなれば女子からモテないはずはない。
彼が廊下を歩けばいつも黄色い声が煩いくらい聞こえるのだ。


…そんな女の子たちには申し訳ないと思うけど、私は正直言って、基山ヒロトが苦手だ。
あまり話したことはないけど、…なんだか、その……同じ、ニオイがするのだ。私と。

――…つまり、彼も私のようにある一定の別人格を演じているのではないかという疑問。



以前誰もいない生徒会室の前で、彼の疲れたような虚ろな目を一瞬見かけてからその疑問は確信へと変わった。


『普段の彼は本当の基山ヒロトではない』

演劇を少しかじっただけの私が思うだけで、当たっているかどうかなんて分からない。
だけど、いつもニコニコ笑っているあの顔に裏があるのだと思うと不信感は高まる一方だった。





呼び掛け活動のため早く学校にくるであろう彼を生徒会室で待ち受けようと思い、少し早足で歩く。

「……ちょっと恥ずかしいけど、予算の為だもんなぁ。…演劇部のみんな、私がんばるからね…!」

いつも慕ってくれている演劇部員のみんなにテレパシーを飛ばしつつ、小声で呟いていた、正にその時。


「何ぶつぶつ言ってるの?」



目の前に、あの生徒会長…基山ヒロトが現れた。

「…きゃあ!??」

「そんなに驚かなくても…傷つくなー」


基山ヒロトは相変わらず爽やかな笑顔を携えて棒読みでセリフを発する。
ほんとこの人は……演劇なめてるよ!

仮面を被ったように本性の見えない彼にゾクリとしながらも、部の予算を上げてもらうためにやってきたことを思い出し、キリリと口を引き締める。

今日のキャラは『気弱な後輩キャラ』だ。



「………っ、あの…!わ、私が何て言うかなんてもう分かってると思うんですけど、私たち演劇部の予算を上げてください!!」

「……懲りないねぇ」

「予算を上げるのが難しいのは重々承知してます…!でも、うちも部員が増えて必要な物が必要経費で買えない状況なんです……!」

「へぇ、それは大変だね。ところで今日は何キャラなの?同じ学年なのに敬語だしさ」

「…っ、真面目に聞いてよ!!!」


……あ、しまった。
後輩キャラなのについ口調が元に戻ってしまった……。不覚…!
人が真剣にお願いしてるのに返ってくるのは生返事ばかり。
私の基山ヒロトへの苦手意識がまた高まる。


「うん、真面目に聞いてる」

「じゃ、じゃあ…ちゃんと聞いてください。……もうすぐ予算会議も始まりますし、その日までには…き、基山くんの予算を増やすという了承が欲しいんです。お願いします!私にできることなら何でもしますから……っ!」


少しだけ涙を溜めて上を見上げる。
もちろん、これも演技。
最後の一文は言うつもりなかったけど、感情に任せて時々アドリブが入ってしまうことは舞台の上ではよくある事だ。
裏があるのではないかと疑っている基山ヒロトに『何でもする』発言はマズかったかな…と後悔しつつ、聞き逃してくれるのを願ったのだけれど。


「………なんでも?」

「……え?や、あの…」

目の前の男が持つ、翠の瞳が色を変えた気がした。
急に言葉に感情が入ったのを感じて、私は思わず後ずさる。

「今、なんでもするって言ったよね?」

「えっと……そ、それは私にできる範囲内であればという訳でして……」

じりじりと迫り来る彼から視線を外しつつ、後輩キャラを演じ続ける。
あー、もう…。この少しずつ近づいてくる正端な顔を出来ることなら殴り飛ばしたい。

…って………ん?
近づいてくる?…顔が??
はた、と気が付けば目と鼻の先にある基山ヒロトの顔。


「わ、わきゃぁぁぁぁぁ!?ス、ストップ!ストップストップストップぅぅぅ!!!」

「んー、どうしよっか。何してもらおうかなぁ?」

え、ちょ……この人本当どういう神経してんの!?
今にもキ…キスしそうな距離で何真剣に考えてんの!!?


「あ、あの!基山くん!!近い!!とりあえず離れて!」

「うーん…『基山くん』かぁ」

「……へ?」

「俺のこと、ヒロトって呼んでくれたら良いよ」

「け、結構です!!」


本当に予算くれる気はあるのかこの男は…。
今そんな話してないし!しかも私が生徒会長の下の名前を呼ぼうものなら学校中の女子からの冷たい視線は逃れられないだろう。
未だに火照る頬を冷ましながら、どうにか逃げようと左右を見るといつの間にか基山ヒロトの腕によって囲われていた。

どうしよう……。逃げれないし。
…いや、これは逃げずに粘れということかな。
……そうだよね。演劇部に予算をもぎ取るって約束したもん!そのためなら今現在、私の前で嫌な笑顔を浮かべる男の嫌がらせにも耐えられる!!……はず。


「じゃあ、予算増やすように他の連中にも掛け合ってみるからさ、俺のこと下の名前で呼んでよ。俺もリュウって呼ぶから」

「……………え、な…なんで名前…」

「知らない訳ないだろ?俺だって一応生徒会長なんだから」


……これは、所謂『生徒会長命令』ってやつだろうか?

そんなことをぼんやり考えながら間近にある整いすぎた顔を見つめる。


すると、急に彼の唇が私の頬を掠めて耳元へ向かった。
いきなり動くので思わずびくりと肩を震わせると、いつもより少し低めの声で彼が一言。



「…今度は本当の、君を見せて。そしたら俺も、本当の俺を見せてあげる」

「…………!!」


そう言った彼、基山ヒロトは漸く私の傍から離れて、生徒会室の中へと姿を消したのだった。



取り残された私はというと、ただ口を開けて目を見開くことしかできなくて。
次に会うときには必ずあの仮面を剥いで、素の彼に「ヒロト」と呼んでやろうと心に誓ったのだった。






end

―――――――――――

瑛壱さんのリクエストで、『学パロ基緑♀』です。
まずは、大変お待たせして本当に申し訳ございませんでした!><
特に指定がなかったので好き放題書いてしまいました…^q^
いつも基山くんに対して緑川は好き好きオーラ出てるんで、学パロでは逆に対立関係にあってもいいかな……という妄想です\(^O^)/
せっかく瑛壱しゃんから学パロを書く機会を与えてもらったのにこんなんですみません…!
書き直しとかいつでも受け付けてますので…!orz

では、この度は本当にリクエストありがとうございました!
これからもよろしくお願いしますwww




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