日も沈みかけた夕暮れ時。
俺は台所で、見知った萌黄色の髪をした人物を発見した。
(あれ…?緑川…??)
扉の隙間からそっと覗いて、緑川の様子を伺う。
だって、夕飯でもないこんな時間に台所にいるなんて、明らかにおかしい。
さっき姉さんが、卵を買い忘れたと言って出かけるのを見たから今台所には緑川しかいないという事になる。
基本的に、お日さま園では食事前の台所は姉さんとその日の食事当番の人しか出入りできないルールになっている。だけど、たしか今日の食事当番に緑川の名前はなかったはず…。
「うっわぁ!おいしそ〜!!」
俺が考えに耽っていると誰もいない台所に小さく響く声。
………なるほど。
緑川の考えてる事がやっと分かった。
さっきからずっといい匂いがすると思ってたんだ。
輝く緑川の瞳には恐らく机の上に乗ったコロッケが映っている。
今日の夕食はコロッケのようだ。
そのコロッケを見つめた後、緑川はお皿に山盛りにのっているそれを1つ、ひょいとつまんだ。
「いっただっきま〜す!」
語尾にハートでも付きそうな位上機嫌で一口頬張る。
いい具合に油を含んだサクサクの衣の中にはホクホクのジャガイモと牛肉ミンチがこれでもかという程詰まっている。しかも、緑川があまりにも美味しそうにコロッケを食べるもんだから。
ぐぅぅぅ……。
「…………あっ!」
「…!?だ、誰だっ!!?」
思わず零れたお腹の音と声。
もちろん緑川が気付かない訳がない。
瞳子姉さんが帰って来たと思ったのか、食べかけのコロッケの欠片を持ったまま顔色を変えて振り向いた。
「……って、ヒロト?」
「あー…、いや、その…。たまたま通りかかったら緑川がつまみ食いしてるの見ちゃって…」
こうなってしまったら仕方がない。
普段は入れない食事前の台所に足を踏み入れる。
幸いまだ姉さん帰って来る気配もないし。食事当番にいたっては配膳前に来るからまだ時間あるし。
多分、バレない。
…大丈夫だろう。
「……み、見てたのか…!」
「うん。ばっちり」
「ひ…、瞳子姉さんには……っ!」
「もちろん。言わないよ」
「わぁぁ!ありがとうヒロト!!これはオレたちだけの秘密にしよう!」
「いいよ。ただし……」
「ただし…?」
俺は緑川に近づいて、その右手をとった。手には食べかけのコロッケ。
俺はそれを戸惑いなくパクリと口に頬張った。
ついでに緑川の指もペロリと舐める。
「………一口ちょうだい?」
「……っ、んなっ!!?」
咀嚼しながら「おいしいね」って言ったら、緑川は顔を真っ赤にして「食べてから言うな!」って怒ってた。
だから俺は緑川の耳元でこう言ったんだ。
これで、共犯
「…あっ!今玄関から姉さんの声がした!!緑川、早く逃げよう」
「……えっ!?ちょ、ヒロト待ってよ!」
この後、コロッケの数が足りなくて姉さんに怒られました。
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